194 神喰いのドラトニス
「ドラトニス! アンタ何やってんの!」
アディソンが見上げながらそう叫んだ。
その声にドラトニスが下を見下す。
「おうアディ、久しぶりだな」
その顔は俺の知っているドラトニスの顔ではなかった。
くたびれた中年のような姿ではなく、まだ髭の生えていない青年になりかけた男の姿が。ちょうど、俺と同じぐらいの年齢だろうか。
「ドラドラ、説明かお肉を要求する」
「ええ、詳しく話してくださいますか? わたしたちは魔王を倒す旅の最中であったはずです」
復活させた勇者パーティーの記憶は魔王討伐の旅の半ば、ドラトニスが一番楽しいと感じていた頃のものだ。
「コルネリアもミミーも落ち着けって。今からいいもん見せてやるから、いや、この先ずっと夢のような時間を過ごさせてやるよ」
そう言ってドラトニスは上空へと昇っていく。
即座に俺の体に“特別な”肉体強化魔法を発動させ、精霊化魔法を発動させようとするが――
「無駄だぜ、大魔法使い様。既に精霊は俺が掌握した、もう呼び出せない。あとは親玉を取り込んだらおしまいだ」
どうやらすでに聖精霊と魔精霊を取り込んだようだ。
ドラトニスが発動させたのは下位世界と上位世界を繋ぐ召喚門の生成、魂の転写、そして自身の存在を精霊へと昇華させるものだ。
神という存在は言ってしまえば、その種族を司る一番力を持っている精霊のことを指す。
魔精霊と聖精霊の一柱から五柱までの力を取り込んで精霊化したドラトニスは――、すでに神と同等の力を持っていると思われる。
ただの神ではない、神を脅かすことができる神の力を喰らうことができる、神喰いだ。
「ちょ、待ちなさいよ!」
アディソンの言葉を背に、ドラトニスはさらに上昇し。
そして今しがた戦いを始めたアーネリアフィリスとジュレストネレスの間にギラギラと輝く魔力を放ちながら突っ込んだ。
刹那、空に浮かぶジュレストネレスの肉体がおかしな方向へと歪む。
さらに、アーネリアフィリスの頭部が欠損した。
総計10体の精霊を取り込んだドラトニスの力は、もはや神を凌駕している。
直後に神喰いが行われた。
アーネリアフィリスの肉体が吸い込まれていく。
神の肉体がギラギラとした魔力に変換され、ドラトニスを中心に変化していく。
『ト゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛√﹀╲_︿╱﹀╲/╲︿_/︺╲▁︹_/﹀╲_︿╱▔︺╲/————ッ!!』
宙に浮かぶのはヒト型をした一体の漆黒の龍。
様々な精霊の特徴を携えた、神喰いのドラトニスが存在した。
ドラトニスはさらに魔法を発動させる。
もはや身動きの取れない状況にあるジュレストネレスの胸元に召喚門が生成された。
召喚門から露出するのは、ジュレストネレスのコアだ。
ジュレストネレスの召喚は聖精霊や魔精霊と同じく一時的なものに過ぎない。
本体ではなく、作り出された肉体に神の意識を付与したもの。
仮初の肉体を食べたとしても神の力は手に入らない。
だからこそドラトニスは神をも超うる召喚門生成魔法を用いて、ジュレストネレス本体をここに呼び出した。
バツン、と。
ただの一瞬。
この世界を総てきた二柱の神が消え去った。
残るは新たに誕生した唯一神のみ。