193 獣神柱・アーネリアフィリス
視界が開ける。
永遠とも思える時間が終わりを告げ、目の前に広がるのは目的を果たすために動く魔法陣の光。
神の顕現と魂の転写魔法。
それだけじゃない。ドラトニスのヤツ、滅茶苦茶なことを考えてやがった。
ジュレストネレス召喚に用いた超巨大魔法陣に白の光が巡り、五芒星が上書きされ八芒星へと変貌していく。
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上空に浮かぶジュレストネレスが声にならない叫びをあげた。
神の力をもって神を殺すために、ジュレストネレスの力を奪って魔法の発動に注ぎ込んでいる。
直後、ジュレストネレスの真正面に凄まじく巨大な召喚門が出現した。
まがい物の召喚魔法ではなく、この世界と神の世界を繋ぐ門だ。
ふわりと、俺の体が地面に落下した。
魔法のコントロールが俺から離れたようだ。
「アレクシス様!」
同じく解放されたリンシア、そしてリリーとニーナも俺に駆け寄ってきた。
「ねえアレクシス、いったい何が起こったの?」
「……邪神召喚よりも最悪なことだ」
「最悪なこと……」
ドラトニスは神になるつもりだ。
「いっつー、あれ、何が起こったの……? というか、ここどこ?」
「アディソンさん、大丈夫ですか? ミミーさんも、ご無事のようですね」
「ん、ミミーはいつも元気。ドラドラがお肉くれるから」
俺たちの正面に三人の少女たちがいた。
空っぽの人形ではなく、瞳には知性が宿っている。
ドラトニスの計画の一部だ。
完全な形で勇者アディソン、大聖女コルネリア、闘戦士ミミーを復活させる。
アーネリアフィリス召喚魔法を改造する際に仕込まれた理論の一つだ。
生まれ変わった勇者パーティーが秘める過去の記憶部分のみを空っぽの魂に転写し、当時の人格を完全再現する。
これがしたかったから、ドラトニスは勇者パーティーが一人でも欠けたら俺を殺して計画を破棄するつもりだったのだろう。
記憶が転写されたのは三人だけではない。
俺とドラトニスも相互に記憶を転写させられた。
記憶を転写されたからこそ、ドラトニスが何を考えていたのかが理解できる。
「あの、すみません。今どういった状況なのでしょう、これは魔王による被害ですか?」
コルネリアが訝しげに俺たちへと話しかける。
「……酷なことを言うが、全部ドラトニスの引き起こしたことだ」
「ドラトニス様が……? そんなまさか。ドラトニス様は今どちらに」
「上だよ」
全員の視界が上を向くと。さらに上を見上げるドラトニスが一人、宙に浮かんでいた。
刹那、宙に浮かぶ召喚門がカッと光を放った。
ギラギラと輝きながらあふれ出す精霊の魔力と共に、門の中から巨大な爪が顕現した。
徐々にその体格が露になっていく。
「「……アーネリアフィリス様」」
神と意思疎通のできる勇者ニーナ、そして勇者アディソンが声をそろえてそう言った。
召喚魔法によるエネルギーロスのない、完璧な姿の神が、そこに存在した。
虹色に輝く鱗を纏い、目を奪われるほどに美しい龍が一柱。
――獣神柱・アーネリアフィリスだ。