019 貴族状態
「後は密偵を付ける。勇者と闘戦士の捜索、魔物や魔精霊との戦闘においては国境を跨ぐこともしばしばだろう。役に立つはずだ」
密偵とはどんなものかと聞いてみると、要は教育されたスパイだ。
他国との関係が悪い状態で正式なルートから入国が出来ない場合、秘密裏に入国の手引きを行ったりしてくれる。
後は、魔王討伐に障害になり得る人物を裏から失脚させたりすることも出来るのだとか。
あれ、やっぱり帝国ヤバいんじゃ?
ちなみに、リンシアが王国に密入国していた時の馬車の御者も密偵の一人であるらしい。
「最後に、帝都の土地を授けよう」
もう言葉が出ない。
この活気あふれる帝都に土地が貰える……?
年俸から土地代を引かれるわけでもなく……授ける……。
何やら現代の勇者パーティーが現れた際に住んでもらうための土地を確保していたらしい。
それも帝国宮殿の建つ、帝都のど真ん中付近に。
土地の価値なんて付けられないほどに、凄まじく重要な土地をだ。
ついでに庭付きの巨大な屋敷と、使用人もセットで付いてくる。
超待遇にもほどがあるぞ。
「さて、長話もこれぐらいにしておこう。馬車の旅で疲労も溜まっているだろう」
「疲労ならわたしの禁術魔法で即時回復いたしますよ、アレクシス様」
「リンシア、少し静かにしておきなさい」
「……もうしわけありません」
しょんぼりした顔はちょっと可愛らしい。
「本日はゆっくりと疲れを癒しなさい。明日は勇者及び闘戦士の捜索と、魔精霊シルフィードの討伐の詳細を伝える」
「わかりました」
話し合いを終え、中庭の庭を戻り再び謁見の間に到着した。
謁見の間には、先程俺をお召し替えさせた男性たちが待ち構えていた。
「改めましてアレクシス勇爵様。今後は我らが身の回りのお世話を致しますので、なんなりとお申し付けください」
なるほど、君たちが屋敷とセットで付いてくる俺の使用人というわけだ。
もう、どうにでもなれといった感じである。
皇帝陛下とリンシアと別れ、使用人に連れられて授けられた土地に建つ屋敷に案内される。
本当に、宮殿に隣接している土地に建てられた屋敷のようだ。
こんな立派な屋敷に俺が住むのか……?
門から玄関にまで続く道が遠い、庭が広すぎる。
王国でもこんな立派な屋敷見たことないぞ。
屋敷の中に入ると、流れるように使用人たちが動いていく。
どうやら使用人は俺を屋敷に案内したメンバーだけではなかったらしい。
メイド服を着た若い子や、いかにもベテランといった見た目のご老人まで、様々だ。
帝国に到着してすぐに宮殿へ向かって長話をしていたため、時刻は夕方に差し掛かっている。
昼食を食べ損ね、空腹になっていたのでそのまま食堂に案内された。
案の定、食堂も広すぎる。
凄まじく長い机の最奥に着席させられ、カトラリーが並べられたと思ったら即座に料理が出てくる。
いや、早すぎだろう。
全て出来立てのホカホカであり、今まで食べたことのないような御馳走である。
うまい! うまい! うまい!
食事を終えれば風呂だ。
そう、風呂。
水浴びではなく、巨大な浴槽に湯が溜まっている風呂だ。
高貴な身分でないと入ることができないという、あの風呂だ。
もはや天にも昇る様な心地よさであった。
風呂から上がれば全身をマッサージされ、今まで溜まっていた老廃物が排出されるようである。
……帝国に来てよかった。
さっぱりとした気分でバスローブを身に着け、もう完全に貴族状態だ。
後はゆっくりと眠るだけ。
明日からが本番なのだ、皇帝陛下の言う通りしっかりと疲れを癒し、万全の体制で挑まねば。
寝室に案内され、ドアを開いて中に入る。
綺麗にベッドメイクされたベッドの上に視線を向けると。
…………え。
「お待ちしておりました、アレクシス様」
「あの、リンシア……?」
際どい衣装を身に着けるリンシアがベッドの上で待ち構えていた。