186 蘇生魔法
「魔王はどこに行った」
「ん、あいつなら召喚魔法の発動に消費されたよ。お慕えする神の糧になったんだから本望だろ」
ドラトニスはトン、と地面に着地する。
魔王はもう存在しないようだ。
ドラトニスはホムンクルスであるが故に地下空間から出ることはできないと言っていた。
ジュレストネレスが召喚されたタイミングで現れたということは、やはりこの状況を手引きしたのはドラトニスなのだろう。
空に浮かぶジュレストネレスは静止したまま、精霊……いや、神の魔力を放ち続けている。
「何が目的だ」
「怖い顔すんなって。言ったろ? 俺は俺のやり方で報われるってな」
「その報われ方が邪神召喚って訳かよ」
俺の言葉にドラトニスは顔を背け、笑う。
「本物の命はよ、神にしか作れないんだ。紛い物ではなく本物の俺として蘇り、コルネリアに許しを請うためにジュレストネレスと契約した」
「なぜそこまでする必要があるのです、わたしは過去にあなたを生き返らせたことを後悔していません。あの謝罪はなんだったのですか」
ドラトニスの言葉にリンシアが食い掛った。
「あの謝罪はよ。リンシア、お前に向けてのものだ。俺が請いたいのはよ、俺のために死んだコルネリアなんだよ」
「ドラトニス、コルネリアはもういないのよ! みんな生まれ変わって今を生きてるの」
「えーっと、新しい勇者様よ。確かに魂はアディソンと同じものかもしれないがよ、お前はアディソンじゃないだろ? 違うんだよ」
そう言って、ドラトニスは転移魔法を用い両手にそれぞれ何かを呼び出した。
右手に持っているのは……肉片……?
血にまみれた肉塊がドクドクと動き、生きていることがわかる。
左手に持っているのは、二本の骨だ。
「これがなんだかわかるか?」
「クンクン……。リンリンとニーナ……それからリリーの匂い」
「さっすが闘戦士様、生まれ変わっても鼻の良さは健在だな。ま、不正解なんだけどよ」
「勇者アディソンと闘戦士ミミーの遺骨。それから、蘇生魔法を使った大聖女コルネリアの成れの果てですね?」
「大正解、昔から冴えてたぜ。大聖女様」
生まれ変わる俺たち……過去の勇者パーティーの遺物。
ドラトニスの目的と、命を作り出すことのできる神の召喚。
「勇者パーティーを復活させるつもりか?」
「賑やかでいいだろ?」
「そんなことをして何になる」
「俺だってハーレムしたいじゃねぇか」
ハーレムのために?
それだけではない、ドラトニスは何かを企んでいるようだ。
目的を見据えた、狂気を感じる瞳が物語っている。
「悪いけど阻止させてもらう」
「阻止しようとしてるとこ悪いけど、もう遅いんだわ」
刹那、どっと空からギラギラと輝く魔力が降り注ぐ。
コイツ……会話しながら俺に悟られないよう魔法を構築してやがった。
ドラトニスが構築したのは外枠、内部構造は空からジュレストネレスが落としたものだ。
それが一つになり、ある魔法を発動させる。
――蘇生魔法。
理解不能な理論で動いていることが分かった。
複雑に展開する魔法陣の模様から読み取れるのは、人間の域に留まっていては実行不可能だということ。
やがて光は終息し、ドラトニスの他に三人の人物が現れた。
リンシア、リリー、ニーナとそっくりな人物たち。
目に光がともっておらず、まるで人形のようだ。
「さーてと、パーティーといこうじゃないか。勇者パーティーだけにな、大魔法使い様」