185 邪神ジュレストネレス
ちょっと乾いた笑いが出そうだ。
現状、これ以上の火力を出すのは難しいぞ?
防御に徹しているのか? こちらが攻撃しているにも関わらず、反撃の兆しはない。
まさか、魔法そのものを無効化しているとか?
いや、待て、魔王の周囲に漂う魔力。
黒い魔力でカモフラージュしているが、あれは……。
「――精霊の魔力」
ギラギラとした禍々しい輝きが垣間見えた。
俺の放った超火力の魔法が無効化されたわけではない。ちゃんと魔王に届いて、届いたうえで防がれただけだ。
あれだけの威力でカモフラージュを少しだけ削ることしかできなかった。
≪我は今、神域にある。ジュレストネレス様が貴様に授けた魔法陣の中にな≫
何を言っている。
神域、貴様に授けた?
ゾワリと背筋が凍るような気がした。
ギラギラとした光の中央に存在する魔王の指さす先にいるのは、間違いなく俺だ。
ジュレストネレス、魔王を復活させる敵対する神の名前。
その神が俺に大陸に広がる魔方陣を授けた。
実際にはドラトニスが俺に授けたものだ。
俺がトリガーとなって構築が始まった魔法。
≪時は満ちた≫
刹那、帝都内を彷徨っていた魔物たちが弾けるのが見えた。
肉体を強制的に魔力に還元されているのがわかる。
その魔力が魔方陣へと注ぎ込まれていった。
認めたくない、けれど。
ドラトニス、やはりお前は敵だったのか?
俺を地下に呼び寄せたのは、世界を滅ぼすため?
世界の破滅に、俺を加担させたのか?
俺は――、
「たとえどんな結末になろうとも、わたしはアレクシス様の味方ですよ」
リンシアが俺の手を握っていた。
「アレクシスはアレクシスよ。あなたはドラトニスじゃない」
反対側の手をニーナーが握る。
「アレクは間違ってない。ドラドラ、おいたした。高級肉を要求する」
言っている意味はわからないが、リリーが俺の頭の上に胸を乗せた。
やってることもわからない。
だが。
ああ、そうか。
どんな困難にあったとしても、俺たちの気持ちは変わらない。
魂に刻まれた想いは揺るがない。
「俺たちにしか、できないことをやろう」
世界を救うという使命を。
巨大な魔方陣が構築を終えた。
魔王の存在した場所を中心に、ギラギラとした精霊の魔力が伝線し、魔王城を貫いて上空へと舞い上がっていく。
発動した召喚魔法は注がれた莫大な魔力を消費しながら目的を果たす。
――邪神ジュレストネレス。
帝都をまるまる覆いつくすよりも巨大な存在が空に浮かんでいた。
邪悪な魔力が巡回し、ヒト型を作り上げている。
魔精霊とは比較にならない存在感、紛れもなく、神であった。
上位存在である神が、この世界に召喚された。
「さっすが俺、しっかりと役目を果たしてくれると信じてたよ」
先ほどまで魔王が居た場所から、聞き覚えのある声が聞こえた。
「……ドラトニス」