018 超待遇
「わかりました、お任せください」
今まで何の役にも立たなかった俺の存在が、世界を救うために必要だというのであれば。
断る理由なんてない。
「もし勇者が見つかったならば、神の言葉を聞くことが出来るようになる。恐らく、姿を隠している魔王の居場所も突き止めることができるだろう」
過去の勇者は神の言葉を聞くことができた。
故に通常は知り得ることのできない情報や知識を身に着けていた。
魔王が復活することや、聖剣の使い方。
そして禁術魔法の使い方や、いずれ自分たちの生まれ変わりとして新たな勇者パーティーが誕生するということも。
だからこそ勇者は子孫に意志を託し、帝国という国を強大に成長させ続けてきた。
が、王国を含め複数の国々は、復活するかもわからない魔王の為に備えるなどバカバカしいと帝国を蔑ろにした。
帝国はというと、勇者パーティーが魔王討伐のために世界を旅した際、信頼を得た様々な種族と手を取り合いどんどん国力を伸ばしていく。
それが気に入らなかった周辺国との関係はさらに険悪なものとなる。
一時期はかなり嫌がらせもあったらしいが、帝国は全て跳ねのけてしまうほどに屈強な国となっていた。
やがて時が流れ、人々の記憶から魔王が存在したことなど消えてしまった現代。
平和になったにも関わらず、危険な魔法を研究し続ける国であると認識されている。
帝国と諸外国との関係が険悪で済んでいるのは、帝国が一切侵略行為を行わなかったからだ。
領土の拡大は全て和解、もしくは帝国側の全面的な保護によるものであり、一切の血を流してはいない。
故に舐められている、といった認識でもあるが。
どの国も凄まじい覇気を放つ皇帝陛下に向けて宣戦布告することはなかった。
「ではアレクシス。正式に帝国に属すに際し、これからの待遇を伝えておこう」
そういえば、確かに俺はどういった待遇と役職で帝国に雇われるのか詳しく聞いていなかった。
お金は沢山貰えそうだけど。
「まずは、爵位を叙勲する」
「えっ」
待った、爵位を叙勲するって……貴族になるってことか!?
俺は農民の出だぞ、爵位なんてそんなポンと渡していいものではないはずだ。
「魔王を討伐する者である証、勇爵だ。位として、公爵と同等のものとなる」
頭がクラクラする。
魔法学園で魔法のほかに貴族社会についても学習していたが、公爵と同等ということは皇帝陛下の次に偉い地位じゃないか。
「アレクシス様、わたしも勇爵を持っているのでお揃いですね」
リンシアの言葉が右から左へと抜けていく。
「次に年俸だ。リンシア、紙とペンを」
「かしこまりました」
皇帝陛下がリンシアから受け取った紙とペンに俺に支給されると思われる年俸の金額を書き記していく。
見せられた金額を確認してみると……。
まて、リンシアに最初見せられた金額の倍近くあるぞ。
こんな金額、どうやって使えっていうんだ。
「どうした、不服か?」
「いえ、とんでもありません! むしろ多すぎて……大丈夫なんですか……?」
「命をかけて魔王と戦う者への待遇なのだ。もう少し加算しておこう」
桁が上がったぞ!?
グランドル伯爵を逆に買収できるんじゃないか、これは。
いや、だがこれは皇帝陛下の言う通り、命をかけて戦ってきてもらうための投資だ。
一個人である俺からしてみると莫大な金額かもしれないが、勇者の遺志を継ぎ魔王討伐を願う帝国という国から見れば安い物なのかもしれない。