175 強い魔法の名前はダサかったりする
一瞬にして魔精霊シェイドの身体がぶっ飛んでいく。
頭が割れそうに痛い。情報が流れ込んでくる。
精霊? 獣の神、人の神? なんだこの情報は。
アーネリアフィリスと……シュレストネレス……? ジュレストネレスじゃないのか?
整理されていない情報の羅列が俺の頭の中を駆け巡る。
これは……ドラトニスから授けられた見えない理論の中に含まれる情報の一部だろうか。
今は考えている暇はない。
聖精霊カオスの権限を使い、思考のノイズを全て取り払う。
直後、聖精霊カオスの精霊化を解除し、他の聖精霊たちを呼び出した。
炎、風、水。
先程、魔精霊シェイドがやっていたのと同じように、複数の聖精霊の力を用いて精霊化魔法を発動させた。
目の前には吹き飛んでいったはずの魔精霊シェイドが存在する。
転移魔法により俺の目の前に呼び寄せた。
それだけではない、魔精霊シェイドを挟み込むように黒と白のドラゴンが存在する。
『はっ、あれ、何が起こった? む、アレクシス様……その姿は……? げげぇ、魔精霊もいるではないかッ!?』
『もうわらわ、何が起こっても驚かぬ……。ドラゴンも死ぬときは死ぬのじゃ……』
先程垣間見た情報で潜在的に理解した。
ドラゴンとはすなわち精霊の下位互換、それも獣に属する精霊のだ。
俺が召喚していた聖精霊がなぜ、鱗に包まれたドラゴンと似通った見た目をしていたのか。
それは聖精霊がドラゴンなどを含む獣の上位存在であるからだ。
ならばドラゴンを媒体に、聖精霊を召喚することも可能である。
直後、魔法陣がドラゴンたちを包み込み、その姿を昇華させていく。
『RYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA————————————!!』
『ZOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA————————————!!』
同時に第四柱・聖精霊ヴァルキュリアと第五柱・聖精霊カオスが顕現した。
白と黒の超絶巨大な龍の姿をする精霊は、魔精霊シェイドの両腕に噛みつき、動きを封じる。
奥底から湧き出る魔力を用い、敵を完全に消滅させることのできる魔法を発動させる。
複雑な魔法陣が重なり合い、バチバチと黒い稲妻が走った。
「アレクシス、おまたせ! ……って、あれ……もう終わりそう?」
「急いで来たつもりですが……出番は無さそうですね」
ようやくニーナとリンシアが駆けつけたようだ。無事に聖剣に精霊の魔力を込めることができたのだろう。
だが、二人のいうとおり、残念ながら出番はなさそうだ。
術式の構築が終わった。
これは、地下空間でドラトニスが凄まじい時間をかけて考え出した、人の領域では到底到達不可能な魔法理論。
意識をするだけで脳がパンクしそうになる。
だから、授けられた魔法をそのまま使用するだけ。
炎、風、水の複合された神級禁術魔法は、人には想像もつかないほどの威力を発する。
「——エレメンタルストリーム」
炎が、風が、水が、二体の聖精霊に拘束された魔精霊シェイドに集約した。