174 死怨
俺の精霊化魔法を観察しただけで真似したっていうのか?
転移魔法しかり、俺が魔法を使えば使うほど強化されていってる。
魔王による強制的な成長であるため、いずれ限界は来るだろうと思われるが――――。
『シ゛ラ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛』
「ッ!?」
気がつけば目の前に魔精霊シェイドがいた。もうノータイム転移ができるようになったというのか。
振りかざされた魔剣を紙一重で避けるが、避けた場所に蹴りが飛んできた。
「かふっ――――」
「うぐっ!」
リリーと二人、凄まじい勢いで飛ばされた。
ある程度、魔精霊シェイドが小さくなったとはいえ、まだ十メートル以上の大きさはある。その巨体からは想像できないような圧倒的スピード。
精霊化魔法を使ってるのに対応できないぞ。
先ほどと立場が逆転した。
吹き飛ばされている俺達に追撃が飛んでくる。
体が地面に叩きつけられ、その衝撃で弾んでいる状況にあるのだと、攻撃を受けた後に理解した。
精霊化により圧倒的強化された身体であってもダメージは免れない。
駄目だ、コレ勝てないぞ。
俺とリリーだけで抑え込むどころか、リンシアとニーナが駆けつけるまで持ちこたえられるか?
落ち着け、聖精霊カオスの力を使って思考を制御しろ。
雑念が取り払われた。
術式を一点集中型に構築し、俺と魔精霊シェイドの間に超層級の結界魔法を展開する。
重ねた結界魔法は百層以上だが――魔精霊シェイドの一撃で八割ほど削られてしまった。
何とか止まってる。一瞬の隙きを狙って転移魔法で離脱し、体勢を整え……転移魔法が発動しない……?
結界の向こう側で、またもや魔精霊シェイドが笑っていた。
お前の考えはお見通しだとでも言わんばかりに。
空間座標を……固定しやがった。
俺の魔法を塗り替えて。
この空間はもう、魔精霊シェイドに支配されている。
パンッと音がした。
俺のすぐ側でだ。
「アレク――っ!」
視線をやると、俺の左腕が炸裂していた。
そして、俺の右腕がまるで切り取られたかのように存在しない。
魔精霊シェイドが俺の右腕を俺の左腕の存在する場所に重なるよう転移させたのだと理解した。
俺が先程手を狙ったように、奴もまた手を狙ってきた。
……遊んでやがる。
頭の座標に転移させれば俺を殺せたはずだ。
遊びやがった。
心の底から愉快だと言わんばかりに、魔精霊シェイドは笑っている。
遊んでんじゃねぇよ。
ドッと、俺の中のブラックボックスから何かが溢れてきた。
恨みの籠もった、強い意志のようなものが。
「――遊んでんじゃ、ねぇよ」
ピタリと、魔精霊シェイドが笑うのをやめた。
同時に、俺の命を刈り取ろうと魔剣フラガラッハを振りかざす。
が、俺はソレを両手で受け止めた。
魔精霊シェイドによって失われたはずの腕は、奥から溢れ出す魔法によって漆黒の腕として蘇っている。
力任せに魔剣を振り払い、俺は口をガパリと開いた。
刹那、大きすぎる魔法陣が俺と魔精霊シェイドの間に出現し――、真っ黒なビームが放たれた。