170 その表現はやめろ
「聖剣を受け取ったことですし、エルフの森へ戻りましょ――」
リンシアの言葉を遮るように、視界がブレた。
揺れている、工房が、大地が。地鳴りを放ちながら、それに合わせて、
『シ゛ラ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛――――――――――――――――――』
聞き覚えのある叫び声が聞こえた。
「おい、嘘だろ!?」
「タイミングとしては、最悪ですね」
大五柱・魔精霊シェイドが動き出したものと思われる。
地上に存在するのに叫び声が聞こえるということは……登ってきてるのか?
しばらくすると揺れは収まった。が、魔精霊シェイドの叫び声と、恐らくは穴の壁面を伝って登ってきていると思われる地鳴りのようなものが響いていた。
「早すぎ、魔王、早漏」
「いやリリー、その表現はどうかと思うけど……魔精霊シェイドが動き出したってことは、移動が可能な状況まで成長したってことだ」
まだ出現から数日しか経過していない。
魔精霊の成長はそんな短期間で終わるものではないはずだ。つまり、魔王がまた強制的に成長を行わせたということ。
あ、やっぱ早漏だわ。リリーは間違ってなかった。
『シ゛ラ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛――――――――――――――――――ッ!!』
声がでかくなってる。もう地上間近なんじゃないのか?
「精霊の魔力を聖剣に込めるのにどれだけ時間がかかるかわかりません。手分けしましょう。アレクシス様、役割を決めましたら転移をお願いできますでしょうか」
「そうしよう、というか多分火力として通用するのは俺とリリーだけだ。二人で魔精霊を抑え込んでるからニーナとリンシアでエルフの森に向かってくれ」
「補助が必要ならリンシアは残ってアタシ一人で行った方がいいんじゃない?」
「保険だ、アーネリアフィリス様のリンシアの力が必要というのがどの程度まで必要なのか予測できない。もしリンシアがいないと駄目だなんてことになったら、それこそ時間のロスになる」
「そういうことなら。うん、わかった。すぐに駆けつけるから頼むわ、アレクシス」
「ああ、任せておけ」
即座に転移魔法を発動させ、リンシアとニーナをエルフの森に送り届けた。
「俺達も行くぞ」
「ん!」
瞬間、視界が切り替わる。
ドワーフ鉱山の巨大な穴の真上だ。
結界魔法を発動させ、足場を作って着地する。
見下ろしてみると……。
『シ゛ラ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛√﹀╲_︿╱﹀╲/╲︿_/︺╲▁︹_/﹀╲_︿╱▔︺╲/————ッ!!』
魔精霊シェイドは、もうほとんど地上まで登ってきていた。
というか。
「デカすぎだろ……」
「黒くて、おっきぃ……」
「その表現はやめろ、リリー」
どこぞのベッドの上で聞いたことがあるセリフだ。
局部肉体強化したマグナムは……。
そんなことはさて置き、急成長を遂げた魔精霊シェイドは巨大な穴に栓ができそうなほどに身体が膨れ上がっていた。
規模が違いすぎる。