017 国の成り立ちと生まれ変わり
「勇者は神の声が聞けたのだ」
「神の声ですか?」
「ああ、魔王が復活することを知っていたのもそのためだ。子孫である私では、神の声を聞くことは叶わないようだが」
かつての国王は、勇者に対して今後一切、魔王の復活について公言するなと命令した。
いつ訪れるかもわからない出来事のために、国を混乱させるわけにはいかないと。
さもなくば、魔王を手引きしたのは勇者であり、世界を混乱から救い出した英雄になるための自作自演だったと言いふらすとまで言われたのだ。
勇者パーティは怒りを覚えたが、たとえ一時の平和であったとしてもそれを崩すのには気が引けた。
世界は、笑顔に満ちていたのだから。
誰もが勇者とその仲間たちに感謝の言葉を告げる。
魔王が復活する事実を隠し、嘘をつき続けるのが苦になった勇者パーティは、やがて国を去った。
王国が何もしないのであれば、いずれ訪れる厄災は自分たちでなんとかしなければならない。
そう意気込んだ勇者パーティの四人は、小さな国を作り上げる。
自分たちが死んだ後でも、魔王に対抗できる国を作るために。
国力を付け、いずれ現れる新たな勇者に聖剣を託すために。
それが、今の帝国である。
「皇帝陛下は……現代の勇者なのですか?」
「私には勇者のような膨大な魔力も、聖剣を手にする資格も持ち合わせていないようだ。勇者の血を引き、魔王の脅威に備える役目を持つ一人に過ぎぬ」
皇帝陛下は聖剣を握り、引き抜こうとするがピクリともしない。
本物の勇者でなければ聖剣を抜くことはできないらしい。
これだけの覇気を持つ人物でさえ、勇者ではないとなると。
本物の勇者は一体誰だけ凄い人物だったのだろうか。
ちなみに俺も試してみたが、もちろん聖剣を抜くことはできなかった。
勇者ではなかったらしい。
いやまて、魔王は復活してるけど聖剣はここに置かれたままになっている。
「あの……勇者は今どちらに?」
「その勇者だが、まだ現れていないのだ」
え、魔王が復活しているのに……勇者はまだ……?
「現在確認できたのは、かつての勇者の仲間であった大聖女コルネリアと大魔法使いドラトニスの生まれ変わりだ」
「それって……」
「ああ、そこにいるリンシアと。そしてアレクシス、君のことだ」
リンシアと俺が……過去に勇者と共に戦ったパーティーの一員?
勇者の生まれ変わりではなかったけど……俺が膨大な魔力を持っていたり禁術魔法を使えたのはそのためだろうか。
勇者パーティーというのは、闘戦士ミミー、大聖女コルネリア、大魔法使いドラトニス。
そして勇者アディソンの四人からなる。
大聖女と大魔法使いは見つかったが、闘戦士と勇者の存在はまだ見つかっていないとのこと。
魔王は既に復活しているにも関わらず、勇者パーティーの代わりとなる者たちがそろっていない状況は芳しくない。
リンシアがなぜ皇帝陛下にそこまで信頼を置かれているのか。
そして現在の大聖女からの紹介で大魔法使いであるらしい俺を即座に受け入れたのはそのためだ。
「魔王を打倒すには聖剣と四人の力が不可欠だ。魔精霊の打倒と並行して、残り二人の捜索に協力してほしい」