168 始祖の子
眠っているエルミアにリンシアが手を添えて術式を組み始めた。
リンシアもまた自力で新たな魔法を生み出したりしている。
俺が教えたスタミナ持続の魔法もいつの間にか改良が施され、凶悪なものになっていた。生命の源が200%増量だ。部屋が汚れてしかたない。
それはともかく。術式が完成し、緑の魔法陣がエルミアを覆った。
見るからに色白で不健康そうな顔色が血色を取り戻していく。
すう、という呼吸音が聞こえた。
まるで息を吹き返したかのように呼吸をするエルミアは、ゆっくりと瞼を開く。
「ああ、なんということだ。これが神のお導きだとでもいうのか」
ルグドアが震えながらそう言った。
ぼんやりと焦点の合っていなかったエルミアだが、次第に覚醒が進んでいく。
「おはよう、ルグドア。また会うことができてよかったわ。前の眠りからどれぐらい時間が経ったのかしら」
「ほんのうたた寝だ。本当に、奇跡と言う他ない」
先ほどまで感情を表に出さない様子のルグドアだったが、感極まった表情でエルミアを抱擁した。
リンシアがエルミアを治癒するまでがアーネリアフィリスの思惑通りだったのだろう。
抜けている神様かと思っていたが、一応は筋書き通りに進んでいる。茶番と言われれば、そうなのかもしれない。
だが、そんな茶番をしても聖剣の修復は必須ということがうかがえる。
「礼を言わせてほしい。確か、リンシアという人間だったか」
「当然のことをしたただけです。愛する人を救いたいと思う気持ちはよく知っていますから。エルフ故にその気持ちを奥底にとどめてしまうということも」
「ひとつ聞かせてほしい。人間にしては、やけにエルフの事情に詳しい。ここ何十年以上エルフの森に部外者の出入りはなかった。貴女はいったい何者だ。もちろん、何者であったとしても無下に扱うことはしない。答えられないのならそれでも問題ない」
ルグドアの言葉に、リンシアはそっと目を閉じた。
何かを思い至ったのか、再び瞼を上げルグドアとエルミアに視線を向ける。
「わたしはリンシア、だたの人間です。ほんのちょっとばかしエルフの……コルネリア・エルフロードの記憶を持ち合わせているだけです」
「――ラグナ・エルフロード様のご令嬢。……まさか、そんなことが」
眼を見開いて驚いてますよ、それ暴露してもよかったのだろうか?
ラグナ・エルフロードのご令嬢、つまり以前の大聖女コルネリアはエルフの始祖であるラグナの娘だったのだろう。
凄く重要人物だし、そんなエルフの記憶をポンと現れた人間が持っているだなんて、驚かない方がおかしい。
閉鎖的な空間であったため、森で暮らすエルフは外の事情に詳しくないようだった。
魔法の復活であるとか、リンシアが人間として転生して大聖女をしているなどの説明を行うと、さらに驚いた表情になっていた。
とても表情豊かです、はい。