166 エルフの森
弓を構え、鋭い矢の先端を俺たちに向けている。
矢には魔法が付与されているのか、ジリジリと光を放っている。
「エドナ、クラウス! なぜ部外者を案内した!」
エルフの代表者らしき人物が、そう叫んだ。
案内をしてくれたエルフの二人はエドナとクラウスというらしい。
「この人物たちは危険ではありません! 我らエルフを傷つける目論見はなく、さらにこの地に溢れる精霊の力にも耐えうる魔力を保持しております!」
「それを証拠に、森で飼いならしていたドラゴンを服従させております。並大抵の人間にできることではありません!」
すごーく必死に弁明してくれてるぞ。
まさかここまで味方してくれるとは思わなかった。依存性はないはず……ないはずだけど、植え付けた印象というのはかなり根の深いものなのかもしれない。
やはり禁術級、上級までの心象魔法とはレベルが違うということか。
「……その言葉に嘘偽りはないか」
「エルフの誇りにかけて」
「誓いましょう、嘘偽りはないと」
案内をしてくれたエドナとクラウスがそう答えると、警戒をしていたエルフたちが一斉に弓を下ろした。
「来訪者を受け入れよう、ついてくるといい」
部外者から来訪者にレベルアップしたようだ。
エルフの代表者の言葉に、ピリピリとした空気も軟化したようだ。
◇
エルフの森というのは自然と共存したような住処になっていた。
木材と石材が組み合わさった住居は、生い茂る木々に沿う形で不規則に立ち並んでいる。
皆長命のためか、何十年、何百年と前から存在し、歴史ある建物のような外見をしていた。
うめき声が聞こえる怪しい森とは違って、空が見える。
これなら上空からドラゴンにでも乗って飛び回れば見つかりそうだと思ったが、どうやら幻覚魔法がエルフの森全体にかかっているらしい。
どれだけ頑張っても森にしか見えず、上空から探すのは不可能に近いだろうとのこと。
便利だなぁ、幻覚魔法。
ちょっと理論について教えていただきたいところだ。
「折れた聖剣の修復をドワーフに依頼し、最後にエルフの力で精霊の魔力を込める必要があると」
「その通り」
エルフの代表者らしき人物の豪華な家に案内され、事情を説明しはじめた。
豪華とはいえ、ドワーフの家の豪華さではなく、格式高いような雰囲気の家だ。
事情を聞いてくれているエルフの名前はルグドアというらしい。
キリッとした男性の顔立ちで、髪は銀色の長髪だ。
エルフの民族衣装であるらしいヒラヒラとした布を束ねたような格好をしている。
ちなみに白ドラゴンはエルフの森の前でお留守番だ。
見た目が怖いし仕方ないね。
「エルフの祖、ラグナ様の伝承に精霊の魔力を操ることができたとある。聖剣に込めるのは恐らく、その力のことだろう」
「心当たりがある、ということか?」
「無い、といえば嘘になるが。それが可能かどうか私には判断がつかない」
ルグドアは少し険しい表情をしながらそう言った。
判断がつかない……と言われてはこちらも判断がつかないな。
アーネリアフィリスの神託によれば、聖剣に精霊の魔力を込める力をエルフに授けたって話だったけど。
「その心当たりってのを教えてもらってもいいだろうか」
「……いいだろう。ついてくるといい」