163 リンシア式調教法2
『グルルルルル……』
ん、なんだか別の鳴き声も聞こえてきたぞ。
魔物っぽい声なのは違いないんだけど、のたうち回って死にそうになっているのではなく、活き活きとしたような。
「ち、近づいてきてる……?」
声は徐々に大きくなり、ズシン、ズシンと地面を鳴らす音も聞こえ始めた。
魔法による幻覚ではなく、何かが存在してる?
少なくともエルフでないというのは確実だろう。
大魔法使いの杖を転移させ、備える。
そして、森の奥から姿を現したのは――、
『人間と獣人じゃない。可哀そうに、わらわに見つかってしまうとは』
「ドラゴンだ」
「ドラゴンですね」
「ビックリする準備して損しました」
「ぷいぷい」
『ほう、わらわをドラゴンと知って動じぬか』
全身を覆う硬質な白い鱗、他者を威圧する鋭い視線。
色は違うけど、紛れもなくどこかで見たドラゴンとそっくりだ。
「なんでこんなところにドラゴンが? リンシア、前回エルフの森に行ったときは出くわさなかったのか?」
「そうですね……前回は一人だったので全速力で森を駆け抜けていましたので……。どうでしょう、もしかしたら居たのかもしれません」
あー、うん。
禁術級の肉体強化魔法で移動してたから速すぎて逆にドラゴンを察知できなかった的な。
『まあよい、人間ごときがわらわに敵うはずもない。血に飢えていたところじゃ、久々に遊ばせてもらおうぞ』
「ちょっと今相談してるから黙ってて」
『え、あっ、はい』
心象魔法による威圧で黙らせておいた。
放っておくと俺の知ってるドラゴンのように調子に乗り出す気がしたからな。
しかしながら多少の実力を持っている為か、完全に威圧は効いていないように思う。
こいつも上級以上、禁術未満の実力といったところか。
「どうする、前みたいに手名付けるか?」
「そうですね。ドラゴンは移動手段や、見た目の恐ろしさから抑止力となったりもしますし。活用の仕方は様々かと思われます」
「なら決まりだな」
白いドラゴンの運命は決まった。
俺達の前に姿を現したのが運の尽きだ。
杖を構え、超低出力で禁術魔法を構築していく。
ホントに最低限の出力にしないと死んじゃうからな。
「さて白いドラゴン、先に言っておこう。ドンマイ。一応、仲間もいるし楽しくやっていけるよ。多分」
『何を訳を分からぬことを言っておる。先ほどはちょーっとだけビックリしたが、耐えられるほどではない。わらわが八つ裂きにして――』
白いドラゴンの声を遮り、森の中で雷鳴が響いた。
そして目の前にはプスプスと焼け焦げたドラゴンの姿が。
「いい焼き加減です、これで元通り」
『は……気のせい? 今、人間が凄まじい魔法を放った気がしたのじゃが』
「はい、アレクシス様。もう一度半殺しにしてください」
『え、ちょ……え……?』
なんか、前回もこんなやり取りしてた気がするな。
バチンと雷を放ち、こんがりと焼く。
そして即座に元通り。
『まて、貴様ら、わらわに何をした!? ギィアッ――あ、また治って……ままま、待つのじゃ! まっ……ギィアアアァァァ――――!』
リンシアさん、今回もいい笑顔だ。