162 森にはだいたい何か潜んでる
結局夜が明けてしまった。
ニーナさん、初めてとか言っときながらかなり練習してましたね、ソレ。
確かに初めてなのかもしれないが、その身のこなしや喘ぐ声、あんなこんなのこんなとこと。ビックリするほどユートピア。
マグナムが暴走した俺のハイスピードアクションについて来れるものかと思いきや、リリーが全員に肉体強化魔法を付与してきた。
そうなりゃもう誰も俺に屈することはない。
闘戦士の付与する肉体強化であるから、その効果は絶大。
魔力を持たないアンナですら、肉体を強化された状態では俺に匹敵するほどのテクニックを見せつけてきたのだ。
というか、いつも俺にやられているから一番張り切ってた。
けっこうよかった。
てなわけで、今日聖剣の修復が完了する。
それまでにエルフの協力を得なければならないので、ベッドでまどろんでいた乙女たちを起こし、準備を行う。
あ、待ちなさいリリー、それは食べ物じゃない、朝ごはんはちゃんとしたものを食べ……あっ。
気を取り直して準備を終えた。
ドラゴンにはお留守番してもらう。
凄く不服そうな顔をしていたので、リンシアから穴の底から拾ってきた岩塩の塊を差し出すと大人しくペロペロし始めた。
その塊、城を建てることができるほどの価値があるらしいぞ。
「道案内はお任せください」
そう言いながらリンシアが先導して進み始めた。
エルフの森は、普通そう簡単に見つけることはできないそうだ。
森の奥深い場所に位置し、太陽すら閉ざされて方向感覚すら分からなくなる険しい道を進まなければならない。
エルフの森を目指して到達するどころか、迷って帰ってこれなくなった人々も数知れず。
そんな道をリンシアはスイスイと進んでいく。
リンシアの前世、コルネリアはエルフの森出身であるため、記憶を辿り迷うことなく進むことができるそうだ。
「な、なんだか変な声みたいなの聞こえない……?」
「のたうち回って死にそうになってる魔物みたいな声が聞こえるな」
森のあちらこちらから、声というか、うめきというか。
物騒な雰囲気を漂わせている。
「エルフが森に幻覚、幻聴の魔法をかけていますから。精神保護の魔法を付与していますから、その程度の音で済んでいます」
よほど自分たちの土地を脅かされたくないのだろうか。
しかしながら、リンシアが禁術級の精神保護をかけていても変な声が聞こえてくるあたり、エルフの魔法が禁呪級に近い出力であるのは間違いないのだろう。
「クンクン。匂いも、わからない」
凄まじい嗅覚を持つリリーでさえ、エルフの居場所は探れないときた。
確かにこれはリンシアがいなければ、聖剣の修復をお願いする以前にエルフの森に到達できなかっただろうな。
アーネリアフィリスがリンシアの協力が必要と言ってたのは、交渉ではなく道案内のためだろうか。