161 今を
「俺はドラトニスじゃない」
「うん、知ってる」
「勇者アディソンが好きだったドラトニスじゃないんだ」
「アタシも勇者アディソンじゃないし、好きなのはドラトニスじゃなくてアレクシス」
ざわりと心が揺れる。
ホムンクルスとはいえ、ドラトニスと会ったからだろうか。
生まれ変わる前の記憶の、ほんの片鱗が浮かび上がってきているような気がする。
ニーナの好意を感じつつも、俺が本気でニーナを好きになれなかった理由。
勇者アディソンはドラトニスに想いを伝えた。
けど、俺は。
こっぴどく、その想いを振ったのだ。
自ら拒絶しておいて、生まれ変わったから俺の女になってくれなんて、そんなことが言えるだろうか。
俺の口から言えるはずがなかった。
記憶はなくとも、潜在意識としてそれは覚えていたようだ。
けどニーナは今。
生まれ変わる前の話ではなく、今の話をしている。
「俺は……」
その気持を受け取ってもいいのだろうか。
今の俺に大聖女コルネリアを死なせてしまった罪悪感はない。
それは全て、ホムンクルスとなったドラトニスが取りこぼすことなく保持しているのだろう。
生まれ変わって、余計なことを考えなくてもいいように。
リンシアがいて、リリーがいて、アンナがいて。
そして、目の前にニーナがいる。
まだ誰も欠けていない、これから熾烈な戦いが待っているだろうが、それでも、今の俺達なら負ける気はしない。
『アレクシス。お前は過去なんかに囚われるな、好きに生きろ。俺は俺のやり方で報われるからよ』
地下空間からのさり際。
ドラトニスが言っていた言葉を思い出す。
お前は過去なんかに囚われるな、か。
『今を生きろ』
そう声が聞こえた気がした。
「俺も……俺もニーナのことが好きだよ」
「アレクシス……!」
「美麗な顔も、艶のある赤い髪も、戦いなんて知らなさそうな柔らかな肌も。ドジだし、すぐにパニックになるし、覗き魔だけど」
「はっ……うえっ!? あ、あうあぅ……」
「そんなとこもひっくるめて、俺はニーナのことが好きだ」
思いの丈を伝える。
俺はニーナが好きなんだ。
リンシアとリリーとアンナと同じく。
欲張りかもしれない。
でも、それが俺の気持ちだ。
全身に纏わり付いていた後悔の糸のようなものが解けていく気がした。
「これで全員侍らせてしまいましたね、アレクシス様」
「あのさ、その言い方は……」
「四対一ならアレクシスに勝てるかもしれないわね。今日こそ枯らしてみせるわ」
「アンナ、ナニをして俺に勝つつもりだ?」
「アレク、ベッドの準備はできてる。子作りの練習、する」
「いやまてリリー。直球すぎるだろ」
「ア、アタシ! この日の為にたくさん練習してきたの!」
はは、ニーナさん、ナニを練習してたんですかね。
「それよりもまず、エルフの協力を得るためにだな」
「アレクシス様の心象魔法を用いれば問題ないかと」
それはそうかもしれないが。
「あの、初めてだから……。やさしくしてね……?」
「――――ッ!」
ニーナ、心象魔法で魅了を使ったな!?
ワザとなのか、それとも無意識か?
いや、このタイミングでソレは駄目だろう。
――――追い打ちはそれだけではなっかった。
はいリンシアさん、凄くいい笑顔してるけど、それはワザとですね?
ピンクの魔法陣が展開されてるんですけど。
以前大変なことになりかけた淫乱魔法じゃあないですか。
我慢できるはずがなかろう。
うん、俺はナニを我慢してたんですかね。
我慢なんてする必要なんてないじゃないか。
魔法を構築し、転移魔法を発動する。
刹那、拠点に与えられている俺の部屋に全員転移させた。
服を置き去りにしてなッ!
躰のラインを顕にさせ、恥じらう四人の乙女。
――さあ、宴の始まりだ。