016 有名だけど、誰も実物を見たことがない例の剣
謁見の間の玉座の後ろにさらに奥へ繋がる扉があるようだ。
玉座の後ろに回らなければ見えない位置にある。
皇帝陛下は細かな細工がされた鍵を取り出し、扉の鍵穴へ差し込んで回す。
開かれた扉の奥にあったのは――中庭……?
宮殿の建物に囲まれ、草木が生い茂る中庭の様な場所になっている。
皇帝陛下は中庭に足を踏み入れ、そのまま進み始めた。
宮殿も広いが、この中庭もかなり広い。
何というか、手入れされた庭ではなく、どちらかというと自然そのものというか。
少し進んだところに森のような場所が現れた。
「見てもらいたいものは、この森の中にある」
薄暗い森を進んでいると、前方に一か所だけ日の光が差し込んである場所があった。
あれは……剣……?
光の差し込んでいる中心に、一本の剣が地面に刺さっている。
「これこそが遥か昔、勇者が魔王を葬り去った聖剣、カラドボルグ」
「聖剣……?」
いや、聖剣カラドボルグだって!?
勇者が使っていた!?
まさか、実在はしていると伝わるが、誰も実物を見たことが無い聖剣がここに……?
「かの勇者は言った。再び世界が闇に侵された時、新たなる勇者が現れ、聖剣を用いて仲間と共に魔王を滅するだろうと。それまで、聖剣を守るのだとな」
当たり前のように話しているが、突然、神々しい剣を見せられたこの状況。
新しい勇者と仲間たちが魔王を滅するって。
リンシアからも同じような内容を聞いてはいたが……。
「突拍子の無い話だと思うのも仕方が無いだろう。他国には知られていない話故にな」
「帝国は……なにを隠していたんですか……?」
皇帝陛下は凛とした表情で俺を見つめる。
「皇族に伝わる話を――勇者が魔王を滅ぼしてから今に至るまでの話をしよう。私は、勇者の子孫だ」
◇
長きにわたり、辛く厳しい戦いが続いた。
かつての勇者は膨大な魔力と聖剣、そして仲間と共に魔王へ立ち向かい。
見事、魔王を討ち滅ぼして世界に平和をもたらした。
ここまでは、誰もが知っている勇者の物語である。
だが、その物語には続きがあった。
勇者の子孫を名乗る帝国のオスヴァルト皇帝陛下、彼は淡々と、真実の歴史を語り始める。
勇者とその仲間たちは気づいていた。
打ち倒した魔王は完全に消滅したのではなく、深い眠りについただけなのだと。
いずれ魔王は復活し、再び世界は闇に侵される。
それが明日なのか。もしくは遠く未来、勇者たちが死んだ後になるのかわからなかった。
勇者は事実をありのままに国王に伝えたが、国王はそれを信じることができなかった。
何十年も人々を苦しめていた魔王、その配下の魔精霊や魔物が姿を消し、世界は平和そのものであったからだ。
人々は喜びに満ちており、そんな状況で魔王が復活するかもしれないという確証のない不安を受け入れることができなかったのだ。