158 カオス・アレクシス
「ジュレストネレスってのは?」
「さっき言ってた精霊の上に存在する神ってやつだ。アーネリアフィリスと同格だな。そいつが魔王を復活させたんだよ」
「初耳なんだけど……」
「他には伝えてなかったからな。多分、皇帝陛下なら名前ぐらい知ってるんじゃないか? 一応この国を存続させるために概要だけは伝承してるはずだし」
勇者パーティーが帝国を作って、勇者の子孫が代々皇帝陛下を務めて魔王に備えてきたって話だったけど。
その水面下で魔王に対抗するだけでなく、魔王を復活させることができる元凶に抗うため、ドラトニスが準備を進めていたってことか?
「そういや王国はどうなった? 魔王倒した後に俺達を追放した国なんだけど、まだ残ってる?」
「あ、最近帝国の植民地になったよ」
「ざまぁみろ! あそこは私利私欲に塗れた人間が多かったからな!」
何だかスカッとした顔をしている。
「それはともかく、神を倒すには神の力が必要ってことだ。んなわけでアレクシス、今ここで精霊化しろ。第五柱・聖精霊カオスな」
「いや、まてまて! リリーの協力がないと無理だ、それに第五柱なんて」
「肉体強化魔法は俺が付与する。どんだけ研究したと思ってんだ。それと、今のお前なら第五柱も召喚できると思うぞ。精霊化で思考回路が速くなってるだろ?」
いやまあ確かに、肉体強化を付与してもらえるならできるかもしれないが……。
つべこべ言わずにやるしかないか。
強くなるためだ。
「リンシア、もし俺が死にかけたりしたら治癒魔法かけてもらっていい?」
「任せておいてください、アレクシス様を死なせたりしませんよ」
「大聖女様はいつの時代も頼もしいな。懐かしいよ。ほら、肉体強化付与だ」
ドラトニスが俺に肉体強化魔法を付与したことにより、思考回路が爆発的に加速する。
これ……リリーにかけてもらった肉体強化より遥かに出力が上だぞ……?
いったいどんな術式で発動させたのかきになるところだが、やることをやらねば。
凄まじくゆっくりになった二人の話し声を耳に入れながら、精霊化魔法の構築を行っていく。
順番をすっ飛ばしていきなりの第五柱だ。
本来であればかなり構築に苦労するのだろうが、ドラトニスの言う通り容易に行うことができた。
漆黒の魔法陣が俺の周囲に立体的に展開する。
直後、身体を通過した魔法陣が俺の肉体に対して召喚を施していく。
この世界の上位に存在する精霊の力が、俺の中へと流れ込んできた。
――聖精霊カオス。
全ての混沌はカオスによって取り除かれ、静寂が訪れる。
「さすが俺の生まれ変わり、いい感じに精霊化できたな」
頭の中の澱みが一切感じられない。
思考を阻害するものが何も存在しないようだ。
眼を開けると、俺の身体に黒いオーラが漂っていた。
完全に悪役にしか見えない。