156 ホムンクルス
ドラトニスの口から、過去に起きた出来事が淡々と語られる。
魔王と対峙した際、ドラトニスは一度死んでしまったそうだ。
その結果を覆す為に大聖女コルネリアが限界を超えた蘇生魔法を使うことで、再びこの世に舞い戻る。コルネリアの命と引き換えに。
ドラトニスはそのことをリンシアに対して謝っていたようだ。
俺も当事者なんだけど、記憶は無いしドラトニス本人はここに居るわで……何も言えなかった。
リンシアは、「これからもわたしを想ってくれるだけで、それだけで幸せです」と俺に顔を向けてニッコリとほほ笑んでいた。
「ま、どうせ俺はホムンクルスだし。いまさらどうこうって話でもないんだけどさ。後は若いもんで盛り上がってくれ。ケッ」
「そういや、ホムンクルスについても話してくれるんじゃなかったのか?」
「あー、そういやそうだったな。話しとくか」
凄くめんどくさそうな顔をしている。
めんどくさそうな顔をしているが、ちゃんと説明を始めてくれた。
まず、ホムンクルスというのは人工的に生み出された人間のようだ。
魔法の研究に没頭していたドラトニスは、自らの寿命が訪れる前にホムンクルスという別の肉体を創り出して記憶を継承したのだそうだ。
「俺の魂は死ぬと次の大魔法使いとして生まれ変わる。そうなればせっかく研究した内容も完璧に継承できない。だからこそ魔鉱石をベースに疑似魂を作ってホムンクルスに埋め込み、記憶を刷り込ませたって訳だ」
「なるほどわからん」
「だろうな」
俺が他の勇者パーティーより記憶を取り戻していなかったのは、ドラトニスが死ぬ前にほとんど記憶を移動させてしまってたからだそうだ。
全ては、研究内容を継承する為。
勇者パーティーが生まれ変わって時間が経過すると、ある程度記憶と経験を取り戻すらしい。が、すべて継承できるわけではなく、零れ落ちる部分がある。
ドラトニスの研究はどれも取りこぼすにはいかず、そのような手段を取ったそうだ。
「まあ、人工的に作り出された命だから俺がドラトニスだと断言できるかというと、怪しいけどな。あくまでも人の真髄は魂だ、本当のドラトニスは確かに死んで、アレクシスになってる」
死ねば魔法理論を保持できる人物が居なくなってしまう。だからホムンクルスとして生まれ変わった自分に全てを継承する為に。
とんでもなく長い年月をこの地下空間で過ごしていたそうだ。
「ま、アレクシスも俺の考えた基礎理論は理解できたみたいだし。応用に進めるだろ」
「もしかして、あの本に書かれてた内容が基礎理論だとでも……?」
「当たり前だろ、人間に考えられて使える域の理論なんて基本も基本だ。超絶基本だ」
ちょっと汗が流れた。
あれだけ複雑な理論を基本だなんてドラトニスは堂々と言った。
人間に扱える域、普通の人間が使っただけでも死んでしまう禁術魔法のさらに進んだ理論をだ。
「察してんだろ、アレクシスも精霊化魔法使ったんだから。今の俺の身体は精霊に近い、エルフ以上、精霊未満ってやつだ」
それが、ホムンクルスってやつか。
精霊に近いから人間の頃よりもさらに深くまで理論を構築することができる。
「ドラトニス様、エルフ以上というのはどういう意味でしょう」
「あー、それはリンシアさんも知らないか。俺の研究の末に辿り着いた考えだし。エルフとドワーフは精霊と人間のハーフだ、エルフのがより精霊に近い」
またとんでもない話をぶちかましてきたな。