155 悔しがる童貞
ホムンクルス……って何だ?
「まあそりゃそんな顔になるよな。安心しろ、説明してやるから。とりあえず茶でも出すよ、向こうに俺の家があるから」
自称ドラトニスはヤレヤレといった表情でそう言った。
歩きだしたドラトニスの後ろをついていくと、木造の家が見えてきた。
中に入ると凄く生活感がある。
ここで暮らしているのだろう。
「ほい、ドラトニス様特製スペシャルティーだ。全部地下で栽培したハーブだぞ」
椅子に座って待っていると、ドラトニスが香りのいいお茶を持ってきた。
「毒とか入ってないだろうな……」
「んなことするかよ」
「嫌がらせで死にかけたんだが?」
「あー、精霊化魔法のアレか? 何かそんなことも書いたような書かなかったような」
コイツ。
「ありがとうございます、ドラトニス様。いただきますね」
そう言いながらリンシアが差し出されたお茶を飲み始めた。
「おお、さすがアレクシスが捕まえた可愛い子ちゃん。いいねいいね、どんな娘か紹介してくれよ、俺の書いた実用書の方法で落としたんだろ? 俺のおかげだな」
モテなかった理由がわかってきた。
「……大聖女リンシアだよ」
「は、大聖女?」
ドラトニスが固まってしまった。
そんなにも驚くところだろうか。
あ、そういえば大魔法使いドラトニスと大聖女コルネリアの間には何かあったんだっけ。
リンシアが思わせぶりな態度をしていたし、わざわざここまで付いてきたし。
「どう見ても、人間だよな? エルフじゃなくて……」
「はい、人間として転生しましたから」
「おいおいマジかよ。確かにそのプラチナブロンドの髪に青い瞳、アホみたいにデカい乳はコルネリアの特徴そのものだけどさ」
「アレクシス様、燃やしましょう」
「ああ、そうだな」
「待て待て、落ち着け! 俺が悪かった!」
アホみたいにとはなんだ、リンシアのたわわは極上のたわわなんだぞ。
「アレクシス様も燃えますか?」
「燃えたくないです、リンシアは素敵です」
こういう時に限ってリンシアは勘が鋭い。
「いやまあ、そっか、人間に……。アーネリアフィリスの仕業か? それはいいけど、なんつーか。二人とも仲が良さそうっつーか」
「ええ、アレクシス様は素敵ですから。もう、身も心も骨抜きです」
「ホントにコルネリアの生まれ変わりだよな? ……随分変わったな」
ドラトニスは「はぁ……」、とため息をついた。
「あんときはありがとよ、助かった。それと、すまなかった。ちゃんと謝れるチャンスが来るとは思わなかったよ」
「……謝らないでください。わたしがしたいと思ってしたことですから。それに、今はこうしてアレクシス様に想いを伝えることができましたし。後悔はしていません」
そういって、リンシアが俺に寄り添う。
「あーもうちくしょう羨ましいなぁ! 俺だってな、別に女の子に興味がなかった訳じゃないんだぞ、コルネリアを死なせといて恋ができるかってんだ! 今からでもそのポジション変わって欲しいぐらいだ! いや、変わるんだアレクシス! 俺が初代大魔法使いだからな!」
「コルネリアを死なせた……?」
「知らんのか? いやまあ、記憶はほとんど戻ってないだろうけど。リンシアさんとやら、コイツに全然話してないのな……」
「頃合いを見て、と思っておりました」
「まあ、今が頃合いってことで。ホムンクルスの前にそっちから先に話しとくか」