154 俺ンクルス
他に同行者が増えないうちにサクッと転移を済ます。
本が保管されているドラトニスの部屋だ。
「埃っぽくなくなりましたね」
使用人にお願いして部屋を片付けておいてもらってたんだけど、凄まじく綺麗になってる。
床や地面なんかも張り替えられて新品同様だ。
唯一そのままなのは本棚とそこに収められている本、結界魔法を付与しているせいか劣化が見られない。
結局この結界魔法の応用理論については書かれてなかったな。
続きはこの下でってやつだろうか。
さて、座標はこの位置から真下に千メートルだったな。
術式を展開し、座標を合わせる。
「よし、飛ぶぞ」
「はい、どこまでもお供します」
魔法陣が展開し、ふと視界が切り替わった。
「これ……は……?」
予想外の光景だ。
地面に草が生い茂ってる。
かなり広大な空間で、どことなく帝国宮殿の中庭を思わせるような雰囲気だ。
頭上には太陽のような光の塊まで浮いている。
天井は空っぽく、青色に塗られているようだ。
「研究施設のような場所になっていると思いましたが……自然豊かですね」
「てっきり外に転移しちゃったのかと思ったよ」
「そうだろうそうだろう、俺の自慢の空間だ」
不意に、俺とリンシア以外の声が聞こえた。
「誰だ」
そう言いながら振り返ると――、
「予想ぐらいできるんじゃないのか?」
ローブに身を包む男の姿があった。
年齢は四十手前といった見た目だろうか。髭をたくわえた、ちょっとイケメンなおっさんである。
予想ぐらいできるんじゃないかと言っているが、この空間に来れる人物なんて限られているはずだ。
つまり。
「ドラトニス様……?」
「美人のお嬢さんに名前を呼んでもらえるとテンションあがるな。さすが生まれ変わった俺、いい娘を捕まえたじゃないか」
本人が認めたということは、間違いなくドラトニス……なのだろうか。
どことなく、鏡で見た俺を成長させたような見た目である。
髭は剃った方がいいかもしれない。
「ホントにドラトニスなのか? 俺はドラトニスの生まれ変わりじゃなかったのか?」
「まあ落ち着けよ大魔法使い。まずは自己紹介からしてくれると助かるんだが」
「すまない、アレクシスだ」
「アレクシスか、いい名前じゃないか。俺には負けるがな、どんまい俺」
何だコイツ、ちょっとめんどくさそうだぞ。
ホントに目の前の人物がドラトニスなら……うん、確かに嫌がらせをしたり童貞だったりということを考えれば間違いない気がしてきた。
「で、質問の答えだけど半分正解で、半分ハズレだ。ドラトニスは死んでちゃんとアレクシスに生まれ変わってるよ。じゃあ俺は何なんだって思うかもしれないが、まあ一言で言うと、ホムンクルスだ」