150 目的を達成した後の方がややこしくなってる
即座にその場から跳躍した。
リリーと二人、隣に並んで魔精霊シェイドの魔法陣を掻い潜り、顎の真下へと到達した。
魔法はもうほとんど構築を終えているようだ。
発動まで後数秒といったところ。
転移魔法でこの場から即座に逃げることはできる。
そうすれば穴に埋もれることはないだろう。
だが、このまま放たれたら穴が埋もれ、純度の高い魔鉱石を採取できなくなってしまう。
そうはさせない。
渾身の一撃を、リリーと共に、魔精霊シェイドの顎に向けて勢いよく放った。
その衝撃は魔精霊シェイドの魔法を強引に上へ向けさせる。
『ゴッ――――――――――』
極限まで威力を高められた紫の閃光が、穴の出口に向かって放たれた。
眼に焼き付くほどに眩しい。
地上に向かって放てば、もう一つ同じ規模の穴ができてしまいそうな威力だ。
光は徐々に収まっていく。
なんとか上手くいった。
魔精霊シェイドの顎は砕け、頭は壁に挟まれて潰れている。
が、そんな状態になっても俺たちに攻撃を加えようと巨体が藻掻き始めた。
即座にその場から退避し、距離を取る。
「リリー、あとどれぐらい維持できそうだ」
「そんなに、長くない」
「……だよな」
精霊化は維持しているだけで魔力をグングン消費する。
この状態でオリジナルの魔法を使えば聖剣に匹敵する火力を出せるそうだが、もう魔力が足りないだろう。
それ以前に、ここで火力をだしたら穴が崩壊する。本末転倒だ。
『シ゛ラ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛√﹀╲_︿╱﹀╲/╲︿_/︺╲▁︹_/﹀╲_︿╱▔︺╲/————ッ!!』
どうやらもう再生が終わったらしい。
魔鉱石が見つかるまでは、なんとか持ちこたえたいところだけど。
「アレクシス! 魔鉱石あった! 見つけたよ!」
背後からニーナの声が聞こえた。
振り向くと、ニーナが頭ほどの大きさのある、虹色に輝く魔鉱石を抱えていた。
隣りにいるリンシアは……それ、岩塩じゃない?
それはそうと。
「でかした!」
時間切れになる前に用事が済んでよかった。
リリーと共に、即座にリンシアとニーナのいるところまで交代する。
それを追うように魔精霊シェイドが襲いかかってくるが――、もう遅い。
精霊化を解除し、元の状態に戻った。
ぐっと思考が鈍り、体が重くなるのを堪えて転移魔法を発動させる。
魔法陣が展開され、俺達の視線は瞬時に切り替わった。
眩しい光が視界を覆い尽くす。
『おお! アレクシス様! 無事であったか! 凄まじい魔法が穴から飛びてたからついに死んだかと思ったぞ!』
俺たちを見つけたドラゴンがそう声をかけてきた。
人を勝手に殺すんじゃあない。焼くぞ。
「アレク」
くいっとローブを引っ張られた。
振り向くと、俺のローブの裾をつまむ……全裸のリリーがいた。
精霊化で一時的に大人の姿になってたから服が破れてしまったのか。
あんなにもたわわしていたのに、今は断崖絶壁が、いや、何でもありませんよ睨まないで。
転移魔法を使い、予備のローブを手に取る。
「リリー、ひとまずコレを」
「ん、ありがと。アレク約束、絶対」
「……わ、わかってるよ」
ちゃんと子作りしますよ、魔王を倒したらね。
「アレクシス、リリーと何か約束してたの?」
「え、ああ、まあ、ちょっと」
「リリーに、種付」
「ふぇっ!?」
いや違わないけど、その言い方はどうなんだよ!
ニーナが困惑してるじゃないか!
「アレクシス様、そうですか。ふーん、もちろんわたしを一番最初に――」
「リンリンには一番譲ったから、今度は譲らない。リリー、子沢山。その後、リンリンも子沢山」
「むぅ、言うようになりましたね……。まあ、アレクシス様は平等に愛を注ぐと言ってくれていますし、今回は先に譲るとしましょう」
あの、そういう話は後にしてさ……聖剣を直しにもらいに行こうよ……。
「ね、ねえ、アレクシス。その、種付って……そ、そういう意味だよね?」
ニーナも無理に会話を広げようとするんじゃない。
『ふむ、人は肉体を合わせて子孫を残すのだったな。魔力から生まれる魔物と違って実に興味深いぞ』
黙れ、焼くぞ。