149 リリー(ついに魅惑のからだを手に入れた……!)
腕が痺れてはいるが、攻撃の手は緩めない。
その場から跳躍し、魔精霊シェイドの腹部へと潜り込む。
凄まじい衝撃のぶつかり合いだったせいか、まだ敵の巨体はのけぞったままだ。
というか、精霊化したことで敵が体勢を立て直すよりも速く俺が動けている。
「もう一発食らっとけ」
力を込めながら放った突きは、魔精霊シェイドの腹部に吸い込まれ、肉体を変形させる。
さらによろけた魔精霊シェイドは後ずさり、穴の壁面に衝突した。
ホント、すごい魔法だよ。
ただ聖精霊を召喚するだけでなく、闘戦士の肉体強化魔法がかかった状態の聖精霊のパワーだ。
それを自分の意志で動かし、戦うことができる。
ただ、過剰な身体能力上昇で、少し感覚を掴むのが難しい。けれど、この状態に慣れてくれば更に力を発揮できることだろう。
第一柱・聖精霊サラマンダーを召喚している状態で、第五柱・魔精霊シェイドと渡り合えているのだ。
こっちも第四柱や第五柱の聖精霊を肉体に召喚すれば凄まじいことになると思われる。
とはいえ、今のままでは倒すことはできないだろう。
俺が魔精霊シェイドに与えたダメージはすでに治癒してしまっているようだ。
なにせここは魔王の魔力の供給源、どれだけダメージを与えようと一撃で葬り去る攻撃を与えなければ倒すことができない。
あくまでも、リンシアとニーナが魔鉱石を発見するまでの時間稼ぎだ。
頼むぞ、早めに見つけてくれないと俺が時間切れになるからな。
『シ゛ラ゛ア゛ア゛――――ア゛ア゛』
ちょっと魔精霊シェイドが変な唸り声をあげてるんだけど。
穴の壁面に背中を預けたまま、ガパッと大きく口をひらいた。
直後、紫に輝く巨大な魔法陣が出現する。魔精霊シェイドと同じぐらい大きな魔法陣が。
「おいおいおい、それはマズイだろ!?」
攻撃魔法を放つつもりだ、それもとんでもなくバカでかいのを。
バカなのかこいつは!
そんな規模の魔法を放ったら穴が崩壊するぞ!
いや、それが狙いか。
穴を崩して俺たちを埋もれさせる。
魔精霊シェイドは埋もれたとしても魔王の魔力供給により復活が可能であるから。
ならばやることは一つ。
攻撃の方向を逸らすしかない。
幸い、上には空まで続いているのだ、そっちに魔法を撃たせれば穴が崩壊するような事態にはならないはず。
顎を下から叩いて上を向かせれば……よいのだろうが、ピッタリ壁に背中をくっつけているので生半可な威力では無理だ。
「リリー!」
呼んだ直後には、もうリリーは動き出していた。
闘戦士の肉体強化と俺の精霊化威力が合わされば、強引に上を向かせることが――、
ふと、リリーと眼が合った。
「リリー。アレク、信じてる」
力強い眼をして、俺の考えを的確に察知して。
心から通じあえている気がした。
ああ、これなら大丈夫だ。
魔精霊シェイドが展開した魔法陣に光が灯っていく。
それよりも速く、強化された俺の思考回路が魔法の構築を終わらせた。
いつだってそうしてきたじゃないか。
どうやら俺はピンチに強いらしい。
「――精霊化魔法、第二式。シルフィード召喚」
リリーの肉体を緑の魔法陣が包む。
その中から出てきたリリーの姿に――、思わず言葉を失う。
小さかった体は大人の女性のものへと生まれ変わり、出るところが出ている、あのリンシアの巨大なたわわより、さらにたわわしている。
羽衣のようなものを身にまとって隠れてはいるが……非常に際どい。
コレが精霊化の力なのか……!
というのは頭の隅へ。
獣人の証である獣の耳もしっかりと付いており、尾は長く伸び、羽衣と共に舞っている。
これなら、火力としては申し分ないだろう。強化された聖精霊二体分だ。
「いくぞ、リリー」
「ん!」