146 第五柱・魔聖霊シェイド
闇の奥底へ、空から降り注ぐ光が届かないほどの闇に潜っていく。
明かりを確保するため雷の禁術魔法を使おうと思ったが、さすがにドラゴンがかわいそうなので炎の禁術魔法を用いて明かりを確保した。
俺たちの周囲を凄まじい業炎が舞っているが、味方を焼くことのない炎であるため熱さはない。
『シ゛ラ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛――――――――――――――――――』
また、穴の奥から叫び声と揺れが聞こえてきた。
間違いなく、何かがいる。
とてつもなく、強大な何かが。
多分、間違いなくそうなのだろう。
魔王としても折れてしまった聖剣を修復させるのは面白くないはずだ。
妨害するならば、確実に今だろう。
聖剣の修復に必要な魔鉱石が存在するピンポイントで。
最後の魔精霊、第五柱が待ち構えている可能性が大いにある。
だが、今ここで引けば状況は更に悪化する。
魔精霊は時間が経過すればするほど強力になっていくのだ。
出現したのは昨日、突然揺れが起こったときではなかろうか。
第五柱・魔精霊ともなると、ニーナの聖剣の力は必須と思われる。
であるから、素材を採取し終えてから、全力で撤退だ。
前方に、微かな淡い光が見えた。
それは黒に近い紅で、悍ましく揺らめいている。
「間違いない……ようですね……」
「ああ、まったく。魔王は嫌がらせが得意みたいだ。第五柱・魔精霊シェイドだよ」
カッと、紅に光る眼が見開かれた。
『シ゛ラ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛√﹀╲_︿╱﹀╲/╲︿_/︺╲▁︹_/﹀╲_︿╱▔︺╲/————ッ!!』
そこに存在したのは漆黒の体を持つ、人形の巨人。
俺の生み出した炎に照らされて全容が明らかになった。
全長にして五百メートルほどはあるだろうか。大きく成長したドラゴンでも、魔精霊シェイドの握りこぶしにも満たない。
そんな巨体が、巨大な穴の底で雄叫びをあげている。
「ドラゴン、魔精霊を避けながら穴の底まで飛べ!」
『そんなことが可能だと思うのかッ!?』
「安心しろ、サポートなら俺たちがやってやる!」
『ぬああ、もうヤケクソだッ!』
グッと、風圧が強くなる。
ドラゴンのスピードが上昇し、魔精霊シェイドとの距離がどんどん近くになってきた。
「リリーは待機、リンシアは補助を! ニーナは俺と一緒に攻撃魔法だ!」
そう言い放った直後、闇が目の前に迫る。
魔精霊シェイドの巨大な手だ。
あの巨体では考えられないほどの速度で、俺たちを握りつぶそうとしている。
刹那、眩い輝きが放たれ、凄まじい衝撃を受けた巨大な腕が弾き返された。
俺とニーナの発動させた風と炎の禁術魔法だ。
炎が風を飲み込み、更に威力を増す。
複雑な術式ではなく、アーネリアフィリスから授けられた最高位の禁術魔法。
細かな操作はできないが、発動速度と威力は申し分ない。
それに加え、リンシアの補助が加われば、第五柱・魔精霊の攻撃であったとしても弾くことぐらいは可能である。
まあ、ダメージは与えられてないみたいだけど。