145 揺れ、再び
「確かに、足場の修理を待ってたんじゃあ地上の光を拝めるのは相当先になってただろうよ。ドラゴンの背中に乗ってささっと脱出するって算段だな?」
「あ、いや。もっと安全で手っ取り早い方法があるからドラゴンには乗らないよ」
「ほう? ドラゴンに乗る以外にもっといい手段があると?」
ドワーフの数は全部で二十人ほど、ドラゴンに乗せて地上に運ぶことも可能だが、それには何度か往復する必要がある。
巨大に成長したとはいえ、一度に背中に乗せられるのは六〜七人が限度だろう。
というわけで、サクッと転移だ。
「実際に見せたほうが早いかな」
術式を構築し、魔法を作り上げていく。
ドラトニスの魔法理論を読んだおかげか、最適化を行った俺の転移魔法は酔わなくなっただけではなく。低コストで大人数を同時に転移させることができるようになった。
魔法理論というのは同じ結果を求めても術式の組み方が違うだけで魔力消費量が大きく変わる。
単純な術式で発動させようとしたら魔力のゴリ押しになるし、複雑にそれぞれの役割を指定して構築すれば低コストになる。が、その分構築がめちゃくちゃ難しくなるし、しっかりと頭で理解しなければ魔力を浪費したり、ちゃんと発動させられなかったり。
一長一短だ。
「おおッ!? なんだこれは!」
ドワーフたちの足元に、巨大な魔法陣が広がる。
よし、うまく構築できた。
直後、ドワーフたちは光に包まれ、地上へと転移した。
「ひとまず、任務完了。リリー、そろそろ降りなさい」
「ん、アレクご苦労。要望は拒否する」
降りないんかい。
さて、もう一つの目的、穴の底にあるらしい魔鉱石とやらを取りに向かうか。
「ドラゴン、もうひと仕事――」
そう声をかけようとした瞬間、巨大な揺れが起こった。
「ふっ、ふえええええええええっ――――!」
「ニーナ、つかまれ!」
「は、はひいいいいいいい!」
リンシアはすでにくっついていた。
バランスを崩しそうになったニーナを掴み、俺の体に引き寄せる。
下に落ちたらえらいこっちゃ。
肉体強化で踏ん張り、横穴の奥まで退避、そして結界魔法を発動する。
グラグラと、足場が崩れていくのが見えた。
『シ゛ラ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛――――――――――――――――――』
穴の奥から、咆哮のようなものが聞こえた。
心を内側から抉るような、不快な音だ。
いや、まさかな……嫌な予感が当たってないといいんだけど。
しばらくすると揺れが収まった。
「みんな、大丈夫か」
「はい、問題ありません。アレクシス様が守ってくださいましたから」
リンシア、もう怒ってないようだ。
よかった。
便乗するようにリリーがいらんことを言って、ニーナもそれに便乗しようか悩んでいる顔をしていた。
いや、便乗せんでよろしい。
「ドラゴンも無事か」
翼をはためかせ、飛んでいるドラゴンに声をかけた。
上から崩れた足場が落ちてきていたけど、普通に飛んでるし無事そうだな。
『なあ、アレクシス様。ホントに……これから穴の奥に進むのか……?』
なんだその顔は。
進むに決まってるだろう。
確かに不穏な感じではあるけど、聖剣を直さなければどのみちアウトなのだ。
「もちろん、行くに決まってる」
『危なくなったら我も転移で逃してくれると……約束してくれるか……?』
ドラゴンの不安もわかる。
不自然な揺れに穴の奥からの咆哮、それに邪悪な気配のようなものも感じる。
「転移させられる余裕があったらな、ほら行くぞ」
そう言いながらドラゴンに飛び乗った。
『ぬおああああ! まだ確証が得られていないぞ! 魔精霊シルフィードの時みたいに弱ってるならまだしも元気な魔精霊が待ってたらどうするのだッ!』
「相手は魔王かって大口を叩いておいて弱音を吐くな! 雷を落とすぞ!」
『グアア、行けばいいのだろう! 行けば! ああ、どうか人々の神よ、我にご加護を……』
ついに人の神に祈りだしたぞ、魔物なのに。