141 それはまぎれもなくヤツさ2
アグナの屋敷から外にでて、ひとまず帝国の拠点に転移を行って作戦会議をすることにした。
「にしても、俺がフォローしようと思ったら急に受け答えするからビックリしたよ」
「うん、まあ。昔の記憶をまたちょっと思い出して」
昔の記憶というと勇者アディソンのか。
俺はあれ以降思い出すことはないのだけど、他のメンバーはちょくちょく思い出しているのだろうか。
リンシアに関してはけっこう覚えているようだが、リリーはあまり過去の記憶について話さないので不明だ。
「さて、救助に関してはアレクシス様の酔わなくなった転移魔法で解決すると思いますが。問題は誰も到達したことのない底までどうやって降るかですね」
やけに酔わなくなったという部分を強調された。
いや、うん、新しい魔法に犠牲はつきものなんだって。
ごめんって、相当根に持ってないか?
それはともかく、アグナの仲間の救助はリンシアの言う通り転移をさせれば残絶した通路を修復する必要が無くなる。
禁術級の肉体強化魔法を使える俺達なら、たとえ道が断裂していたとしても救助を待つドワーフの元へ到達することができるだろう。
それで穴の底にまで到達する方法だ。
途中まではドワーフたちが作った足場が存在するだろうが、その先は絶壁だ。
肉体強化魔法を用いて地道に下っていくという方法もあるだろうが、脚を滑らせたら終わりだろう。
いくらなんでも、底が見えない穴に落下したら無事では済まないと思われる。
「ちょっと俺に考えがある」
「さすがアレクシス様です」
「ん、これで安心」
「解決しそうでよかった」
「ま、アレクシスなら当然よね」
リンシアとリリーとニーナ、それとお茶を淹れに来たアンナが俺を称賛した。
なんだよこの絶対的信頼感は。
「まだ何も言ってないんだけど……」
「そう言って、いつも窮地を乗り越えてきたではありませんか」
いやまあ確かに窮地は乗り越えてきたけど、みんなに助けられた部分も多い。
というか、助けられてばっかりだ。
まだまだ強くならないといけない状況で、素直に喜べない自分がいる。
それは置いといて。
「ひとまず、準備をするから拠点の外に出て待っててくれないか?」
俺の返事にみなが頷き、会議室を退室していく。
さてさて、その準備をいたしましょうか。
術式を構築し、転移魔法を発動させた。
足元に魔法陣が広がり、俺の視界が瞬時に切り替わる。
「もはや懐かしい光景だな」
そう、転移した場所は俺の生まれ故郷。
植民地と化した王国だ。
植民地になったからとはいえ、民が虐げられているということなないので風景は全然変わっていない。
王族やら貴族なんかは身分をはく奪されたらしいけど……。
『むむ、アレクシス様ではないか!』
しみじみ街並みを眺めていると、背後から俺の名を呼ぶ声が聞こえた。