014 帝国
帝国は王国と違い、多種多様な種族が住んでいる国だ。
王国内では仲の悪い隣国の情報規制がされていたためか、ほとんど噂レベルでしかなかったけれど。
どうやら本当に色々な種族が住んでいるらしい。
馬車の窓から帝都の風景を眺める。
街中を歩くのは尻尾を揺らし、獣の耳が頭部に生えている獣人だったり、美しい風貌で耳の尖ったエルフ。
はたまた、道具を作ることが得意だと伝わる低身長でヒゲの濃いドワーフなど。
初めて見る種族が沢山いた。
もちろん、それに混ざって人間も沢山いる。
「どうです、よい街でしょう?」
「ああ、みんな活気に満ち溢れてる」
王国とは違った活気が満ち溢れている。
なんというか、王国ではみんな新しい魔法を開発することに躍起になって……活気というより必死といった雰囲気の方が近いかもしれない。
帝国では、本当の意味での活気というか。
うまく表現できないけど、みんなここで生きてるって感じがする。
しばらく帝都内を馬車で移動していると、帝国宮殿が見えてきた。
皇帝陛下が住んでいる建物である。
高く聳え立つ宮殿は、王国の城よりも上等なものであるのが一目でわかる。
年俸を見せられた時も思ったけど、帝国って金持ってるんだなぁ。
ひとまず、帝国で俺を雇うにあたり、まずは皇帝陛下と謁見する必要があるそうだ。
そこで俺の今後が決まる。
リンシアは「即採用で間違いありません!」と言っていたが……不安になってきたな。
馬車は宮殿の敷地に入り、停車した。
すぐに宮殿の警備と思われる人物が近寄ってきて、リンシアと話をしている。
険悪な雰囲気はない、むしろリンシアの言葉に驚いているようだ。
どうやら、すぐに案内してくれるらしい。
馬車を運転してくれた御者とは一旦お別れで、警備の後ろをリンシアと二人で付いていく。
宮殿内の廊下は広く、そして天井が高い。
かなり沢山の人が宮殿の中にいるようで、すれ違うたびに挨拶をしながら進んでいく。
帝国は危険な魔法を研究する危ない国だとも聞いたけど……やけにフレンドリーな雰囲気だ。
しばらく進んでいくと、扉の前で警備が止まった。
「アレクシス様、こちらでお召し替えを」
「お召し替え?」
「はい、皇帝陛下に謁見するにあたり、相応しい衣装に着替えていただきます」
ふと自分の服装を見てみると……ボロボロだ。
服自体はグランドル伯爵に支給されたものであり、それなりに上等であるが、イフリートとの戦いにより泥で汚れ、あちこち破れている。
確かに一国の代表に会うのに、この格好では失礼にあたる。
「わかりました」
「では、中に。係りの者が完璧に仕上げてくれます」
警備がそう言いながら扉を開けると……中には燕尾服を身に着けた清潔感漂う男性たちが数名、お辞儀をしていた。
部屋の内装はクローゼットや化粧台やら、お召し替え用の部屋であることが一目でわかる。
中に足を踏み入れた瞬間、顔を上げた男性が声をかけてきた。
「ようこそおいで下さいました、アレクシス様。我々がお召し替えを担当させていただきます」
「え、はぁ。よろしくお願いします」
そう返事をした瞬間、バタンと扉が閉まる。
閉まる直前、リンシアが笑顔で手を振っていた気がした。