134 この穴、勇者が空けたって話ですよ
朝食を食べ終え、ドワーフ鉱山に向けて出発ということになった。
もちろん、アンナはお留守番。
大丈夫、夜には転移で戻って来るから。多分。
場所は山脈の中央付近ということで山を越えなければならない。
一応、行商用の細い道も山間を縫って存在するそうだが、そこを通っているとかなり遠回りになってしまう。
それに道中関所がいくつもあって、何度もお金を取られるそうだ。
お金は別にいいのだけど、アーネリアフィリスも神託があったことだし、できるだけ早く到達したほうがいいだろう。
魔導車で移動できればよかったのだが、足場が悪く、木々が生い茂っているので通ることができない。
徒歩で移動するしかないのだ。
が、その道中は思いのほかスイスイと進む。
なにせ全員が禁術級の肉体強化魔法を使うことができるのだ。
山などあってないようなものである。
眼にもとまらぬ速度で険しい道を走り抜け――
「おお、凄いな……」
「観光地になっているだけのことはありますね」
山脈の中央にポッカリと空いた巨大な穴が眼に飛び込んできた。
余りにも穴が巨大であるため、対岸側が霞んで見える。
直系にして一キロはあるんじゃないか?
そして穴の深さは……真っ暗で底が見えない。
この闇が無限に続いているのではないかと感じる。
かなり険しい場所にあるが、一度は見てみたい観光地と呼ばれているだけはある光景だ。
穴の縁を囲うように、街が連なっている。
採掘や武具の加工を行うドワーフが住まい、さらに生み出される商品を世界各国に運ぶ商人たちで賑わう街だ。
観光地ということもあって、宿屋なども多いらしい。
それがドワーフ鉱山の全容であり、巨大な穴の内壁に付着する鉱物や岩塩を採掘して発展し続けてきたそうだ。
ひとまず、聖剣を修復できるドワーフを探すため情報収集だ。
穴の周囲の街で一番大きな場所へと移動した。
「すごい……家が連なってる……」
「どういう作りだ、これ」
遠くからでもなんだか凄そうな街だとは思ったが、実際に近くに見てみると、いくつもの家が複雑に絡み合い連なっている。
建物という概念から逸脱した風景だ。
ところどころ捻れている家もあるぞ。
これも手先が器用でモノ作りが得意なドワーフだから為せる技なのだろうか。
帝都にもドワーフはそこそこいたが、景観維持のためか、ここまで奇抜な建物はなかった。
「おう、アンタら。どっかの国の軍人かなんかか? いいもん揃えてるから、よかったら見てってくれよ」
不意に、声をかけられた。
視線をやると、俺よりも一回り身長の小さな髭面の男……ドワーフがニヤリとしていた。
どうやら武器屋の店主らしい。
奇抜な建物の表に剣やら盾やらが飾ってある。
「どうして俺たちが軍人だと?」
「そりゃぁ立派な鞘を携えた剣士に、獣人の戦士、ローブを着た魔法使いが二人となると、戦争でもしてる国の軍人にしか見えないだろ。面構えもいい、アンタら若いのに戦いなれてるな」
なるほど確かにそう言われると。
魔王と戦争を行っているようなものだし、軍人というのもあながち間違いではない。
ちなみに帝国軍は今、魔精霊出現跡地の魔物狩りを行っている。
魔精霊を倒しても魔王の魔力は垂れ流しっぱなしだから下級の魔物は湧くんだよな。
植民地となった王国は手なづけたドラゴンが管轄してるけど、獣人王国跡地と公国は帝国軍の担当だ。
魔精霊ウンディーネが出現した海は放置されっぱなしになってるみたいだけど。
話を戻すと、魔王がいなくなった平和な世界でも一部では争いが絶えないようだ。
人々が争うには武器が必要であり、品質の高い武器をドワーフ鉱山までわざわざ買いに来る軍人も多いそうだ。
「それじゃあ、ちょっと見せてもらおうかな」
「おうよ、入りな!」




