122 大魔法使いドラトニス
気を取り直し、記述された内容を目に通していく。
そこに書かれていたのは後悔の言葉。
勇者アディソンの力に依存したことにより、取り返しのつかない過ちを犯した。
自らを磨くことを怠った罰だとも書かれている。
故にドラトニスは魔王を倒した後の半生を、この研究部屋で過ごしていたようだ。
ドラトニスの悔しさは魔精霊ウィルオウィスプとの戦いのときに感じ取った。
己の力の無さを。
その後、ドラトニスが何を行っていたのかまでは思い出せていない。
『どうか、生まれ変わった俺が同じ過ちを繰り返さない事を祈る。ここに残したのはアーネリアフィリスから授けられた理論の応用と発展だ。完全には記憶が戻らないらしいので隅々まで全部読むように。もちろんこの本もだ、来世ぐらいモテモテになりたい』
最後は何やら本音のようなものが混じっているが、安心したまえ、今の俺はモテモテだ。夢が叶ったぞ。
しかし、完全に記憶が戻らないともある。
書き殴られた文章には、『俺が真面目に力を付けていればあんなことにはならなかった』『失ったものは戻らない』『今度は絶対に同じことをさせるな』など。
仕出かした過ちについて最大限の後悔を示している。
だが、その過ちというのが具体的にどういったものなのかは記されていない。
この書きぶりからすると、ただ勇者アディソンのお荷物だったのが悔しいというだけではなさそうだ。
生まれ変わりがどのように行われたのか、今の俺には想像もつかないが。
おそらくはアーネリアフィリスの力によるもの、と思われる。
そして残されたのは禁術魔法の応用と発展の蓄積。
本の量を見ると、何十年も研究し続けていたことがわかる。
生まれてから十数年の俺以上に研究に没頭していたのだろう。
ちょっと侮ってた。
思い出した記憶だけでドラトニスを評価するのはよくなかったかな。
まあ、俺なんだけど。
とにかく、ここに残された本に目を通せば確実に力を伸ばせるだろう。
どこまで強くなれるかわからない。
でも、やらないという選択肢は俺にない。
アレクシスとして生まれ変わった俺が、ドラトニスの願いを完遂する。
まずはこの本から。
『全大魔法使い必見! 気になるあの娘を振り向かせる5つのテクニック ~禁術編~』
……中身は普通に為になる実用書だった。
前半は身だしなみや言葉遣い、女性に対して配慮すべき注意事項などが書かれている。
そして後半は禁術級の心象魔法による魅了の加減方法。
ただ魅了を振りまくだけでは思うような結果は得られない、相思相愛にしたければ気になる娘だけに絶妙の加減で仕掛けるべきだと。
為になる内容だけど、残念ながらこれは全てモテないと思い込んでいた男が書いた妄想だ。
どうやらドラトニス、童貞のまま生涯を終えたらしい。
もう一度言おう、願いが叶ったぞ。