120 やはり、本職に任せるのが一番だ
「オスヴァルト皇帝陛下、やはり、というのは?」
「いや、なに。武具の加工に秀でている種族といえばドワーフだ、優秀なドワーフにアーネリアフィリス様のご加護が加われば聖剣の修復も可能かもしれない。と思い至っただけだ」
めちゃくちゃ深刻な顔をしてたような気がするけど……。
でも、確かに武具だけでなく道具全般の加工にはドワーフが一番向いている。
帝国に来て、それがよくわかった。
帝国内で使用されている魔道具はどれもドワーフが作り上げたものだ。
繊細な作りでありながら、凄まじい効果を発揮する。
王国でも魔道具作りが頻繁に行われていたが、人間至高主義であったためドワーフが存在しなかった。
全て人間による手作りの品だったのだが……実際にその効果の差を見てみると一目瞭然だ。
そんなドワーフの本拠地とも呼ばれるドワーフ鉱山に住んでいる一流の技師であれば、聖剣の修復も可能であるかもしれない。
ドワーフ鉱山には行ったことがない。
つまり、座標を定められないので転移することは不可能だ。
一度魔導車に乗って移動する必要がある。
みんな、明らかにホッとした表情をしていた。
……すまんな、気持ち悪くなる魔法で。
どうやら、準備が整えばアーネリアフィリスから再度神託があるとのこと。
今頃大慌てで準備に取り掛かっていることだろう。
もう何が起こるか分からないからな。
聖剣カラドボルグが無い状態で第五柱・魔精霊の出現なんかあった日には目も当てられない。
「さてと、目的地が決まった事だしそれに向けて準備しようか。おーい、リリー、終わったぞ」
「むにゃ……」
駄目だ、完全に寝入っている。
「やーっと終わったの? もう待ちくたびれたんだけど! 散々わたしを放置してくれちゃって、そろそろかまってくれてもいいんじゃないのアレクシス!」
「お、アンナちょうどいいところに。ほい」
「わ、ちょ!?」
ズガズガと会議室に入ってきたアンナに眠っているリリーを手渡した。
うん、放置してしまったのは悪いと思ってるよ?
魔精霊と連続で戦うことになった上、聖剣が折れてしまったのでは、あんなことやこんなことをヤっている場合ではない。
欲求不満だろうが、もう少し我慢するんだ。
今から?
残念ながら俺もヤることではなく、やることがあってだな。
ギャーギャーと騒がしくなりそうだったので、リリーごとアンナを転移で飛ばしておいた。
忘れてるかもしれないけど、皇帝陛下の前である。
うん、静かになった、今頃転移酔いでダウンしているはずだ。
「アレクシス」
さて俺達も解散するかと思った矢先、皇帝陛下が耳元でささやいた。
「帝国で何が起こったとしても、己の役目を果たす事だけを考えるように」
「え、それはどういう……」
「頼んだぞ」
皇帝陛下はそれだけを言うと、会議室から退室していった。
……やはり何だか様子がおかしいような気がするけど。
疲れてるのかな、各国との調整も色々あるだろうし。