012 素晴らしいおっぱいをお持ちのようで
馬車の旅は続く。
帝国の帝都まではそれなりに距離があるそうなので、到着するのは明日の朝になるらしい。
馬車に揺られながら夕食を終え、日も沈んで周囲は真っ暗になった。
リンシアは先に眠ってしまったようだ。
俺もひと眠りしようと思ったが……ちょっと眠れそうにない。
馬車の客席に男と女が二人っきり。
御者もすぐそこにはいるけど。
ランタンの光で照らされたプラチナブロンドの髪が妙に魅惑的で、長いまつ毛と小さな鼻、ふっくらとした唇が美しい。
寝相が悪いのか、ローブが若干はだけ、胸部がハッキリと強調されている。
……思ってたよりデカいな。
年齢は俺より少し年上といった見た目だろうか。
十代後半のお姉さんといった印象である。
そんな無防備な状態のリンシアが俺の目の前に。
眠れるわけないだろ!
一時期は勇者の生まれ変わりかもしれないとチヤホヤされることもあったが。
グランドル伯爵が私の投資先に近寄るなと払いのけていた。
つまり、女性と関わった経験がほとんどない。
やがて俺が魔法を使えないということが広まり、そういった機会は失われたわけだけど。
視線を外そうにも、気になってつい見てしまう。
涎を垂らしながらぐっすりと熟睡しているようで、本当に禁術魔法の使い手なのかわからなくなる。
こうして見ると、一人の女性であることに間違いないのだから。
いいや落ち着け俺、ここで問題を起こしてどうする。
せっかく帝国に行って、新しい人生を始めようとしているところなのに。
ぐっと目を瞑り、寝ることに集中する。
が、リンシアのスースーという色っぽい寝息で全く集中できない。
このまま魔法が使えないんじゃと不安になる以外の要因で、眠れなくなるなんて思いもしなかったよ。
◇
結局、一睡もできないまま朝を迎える。
眼を覚ましたリンシアは大きく背伸びをし、また胸部を強調させていた。
「おはようございます、アレクシス様」
「おはよう、リンシア」
リンシアは背伸びを終えると俺に視線を向け……まじまじと観察し始めた。
「えっと、何か?」
「アレクシス様、もしかして寝不足ですか? 眼の下にクマができてますよ」
「まあ、ちょっと寝れなくて」
誰のせいで寝れなかったと思ってる。
全部リンシアのせい……とまでは言わない。
半分ぐらいだ。
もう半分は、今までのことと、これからのことを思い悩んでのことだ。
両親を失い、使えない魔法を延々と学び続け、生まれ故郷である村も消え去り。
信用もなにもかも失って、王国には存在しない人間となった。
同じ境遇とはいえ、そこに付け入るように現れたリンシア。
魔王の復活だとか魔精霊の出現だとか、俺の禁術魔法だとか。
やはり確証は持てない。
持てない状況であるのにも関わらず、俺はリンシアの手をとって帝国に向かい始めた。
そんな思い悩みだ。
もう失うものは何もないので、なるようになれとも思ってるけど。
「眠れないのなら、襲ってくださってもよかったのですよ?」
「ブッ――――。変な冗談を言うな!」
リンシアは俺の反応を見てクスクスと笑う。
まあ、似た者同士こうやって冗談を言いながら打ち解け合うのも悪くないかもしれない。
「……冗談ですませちゃうんですか?」
「ん、何か言ったか?」
「いえ、なんでもありません! 帝都に着いてからまたじっくりお話しましょう!」
そうこう雑談しているうちに、馬車は帝都に到着する。