119 適当な神託
「アーネリアフィリス様、めちゃくちゃ焦ってた……」
「いや、そりゃ勇者のシンボルでもある聖剣が折れれば神様も慌てるだろ……」
魔精霊ウンディーネ、魔精霊ウィルオウィスプとの戦いから一夜、帝国に戻って状況を整理していた。
俺とリンシアと眠そうな眼をしたリリー。あわあわとしたニーナと、険しい顔をした皇帝陛下の五人で会議室の机を囲う。
敵を倒せたのはいいものの、勇者の力の真髄とも呼べる聖剣カラドボルグが折れてしまったのでは逼迫した状況に陥る。
どうにか修復を行えないかと緊急会議を行っていたところ、アーネリアフィリスからニーナに神託があったようだ。
めちゃくちゃ焦った様子で。
で、その信託の内容だけど。
まず聖剣カラドボルグというのはこの世界に存在しない、精霊の体の一部を用いて作られたものであるらしい。
俺が召喚を行う聖精霊や、魔王配下の魔精霊などではなく、純粋に、神の領域にいる精霊の体の一部だ。
だからこそ、凄まじい力を秘めているそうなのだが……。
どうやら、長い年月で劣化が進んでたらしい。
そのせいか、魔精霊ウィルオウィスプとの戦いを経て、弱っていたところからポキンといってしまった。
「ニーナさん。それで、聖剣の修復は可能なのでしょうか?」
「一応、可能みたいだけど……ちょっと準備がいるみたい」
「準備?」
「うん、現世で聖剣を打ち直せる人物に力を授けるって」
どうやら、聖剣カラドボルグというのはそのままアーネリアフィリスから授けられたものではなく。
過去にこちらの世界で精霊の素材を剣に作り変えた人物がいたそうなのだ。
その人物はとっくの昔に寿命で死んでいる。
なので、その人物に近しい、聖剣を修復可能であると思われる現代の人物に力を授けるのだとか。
力を授けるための準備に少し時間がかかると。
「後、リンシアの協力も必要不可欠だって。アーネリアフィリス様は言ってたよ」
「わたし……ですか……?」
「うん、もうホントに、途中から何言ってるかわからないぐらい慌ててたから詳細はわからなかったけど……。リンシアの協力がないと聖剣は治せないって」
アーネリアフィリスにとって、聖剣が折れたのは余程予想外のことだったんだろうな。
しかし、リンシアの協力か。
修復というぐらいだから治癒魔法を使うのか?
いやでも、治癒魔法だから物を治すことはできない。
元に今、リンシアが聖剣に向かって治癒魔法をかけているが効果はなさそうだ。行動が早い。
それに、聖剣を治すことができる人物に今から力を授けると言っている。
その人物にリンシアが何かしら協力をしなければならない、とうことかもしれない。
もう少し具体的に内容を教えてほしいものだ。
「力を与えられる予定の人物は、今どこにいるのか。それはわかるか、ニーナ」
ずっと難しい顔をしたままの皇帝陛下がそう言った。
ちなみにリリーは眠りについた。
俺の膝の上で。
会議室の扉の向こうから、まだ終わらないのかと、アンナが覗いているのを見つけた。
なんてカオスな状況なんだ。
「えっと、その人の詳細は全然教えてもらえなかったですけど……ここに行きなさいって指示がありました」
ニーナが立ち上がり、机の上に広げられた地図のとある場所を指す。
ここは……ドワーフ鉱山か?
かつて勇者と魔精霊が戦って山に深い穴を空けた場所だ。
穴の奥からは結構貴重な鉱物が見つかるとかで、そこにドワーフが定住して今は鉱山になっている。
あまりにも巨大な穴だから、観光地にもなっていたり。
「やはり……か」
ん、やはり?
皇帝陛下が重々しい口調でそう言った。