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禁術の大魔法使い  作者: うぇに
第二章
110/200

110 成せ

 頭の中で今起こっている状況を理解したくないと、思考が拒絶しているのが分かる。

 魔力はリンシアの禁術魔法により急速に回復し始めているとはいえ、聖精霊を召喚できるほどの量はない。


 いや、たとえ聖精霊を召喚したとして第四柱・魔精霊ウィルオウィスプに勝てるのだろうか?

 視界に捉えただけで、今までの魔精霊とは次元が違うということが理解できる。

 聖精霊一体を召喚したとしても敵うはずがない。

 二体同時ならどうか、恐らく負けるだろう。


 では第一柱から第三柱まで、三体同時召喚なら。

 無理だ、俺の総魔力量では三体同時召喚に足りない。

 無理だけど、たとえ実行可能だとしても勝てないだろう。


 目の前にいるのは、それほどまでの存在だ。


 対抗するには、第四柱以降の聖精霊を召喚する必要がある。

 まだ、第四柱・聖精霊は召喚出来ない。


 手が震える。


 何をすればいい、どうすれば勝てる。

 思考を拒絶している場合ではない。

 考えろ、考えなければ世界が滅ぶぞ。


 正攻法で勝てる相手ではない。

 方法は、何か、時間をかければかけるほど、倒すのは困難になっていくはずだ。

 召喚された直後、まだ成長していないウィルオウィスプを叩かなければ。

 成長されれば、それこそ手に負えない敵になる。


 手に負えない敵になるだろうが――第四柱・魔精霊ウィルオウィスプは成長前であっても俺達の手に負えない相手だ。


 魔王は、勇者とその仲間たちを恐れている。

 自分に届きうる存在を。

 だから俺達が消耗した瞬間を狙い、第四柱・魔精霊ウィルオウィスプを召喚して確実に殺そうとしているのだ。

 仲間の居ない勇者には負けないとでも言わんばかりに。


 ならば、俺が行うべき選択は何だ。


 生き残ることじゃないのか。

 生き残って、再起を図るべきじゃないだろうか。


 ニーナが戦えるようになるまで――待つのか?


 ここは、公国に存在する湾の端っこだ。

 俺が戦いを放棄すれば、確実に公国は滅びるだろう。


 心を取り戻し始めたニーナに、家族を失わせ。

 その上で剣を握れと言えるのか?


 そんな覚悟をさせないといけないのか?

 そうしなければ、いけないのかもしれない。

 だが……それはあまりにも……。


 刹那、世界がひっくり返った。




 ――――――薙ぎ――――――。




 飛ばされながら視界に捉えたのは、魔精霊ウィルオウィスプが魔剣を薙ぎ払った光景だ。

 それも、ウィルオウィスプにとってはほんの小さな力で腕を振ったに過ぎない。

 にもかかわらず、放たれた衝撃は海を干上がらせ、炎系統の魔法で固めた地面を砕き、俺達を宙へ飛ばした。


「アレクシス様!」

「アレク!」


 リンシアとリリーの叫ぶ声が聞こえる。

 衝撃で壊された肉体は即座にリンシアの治癒魔法で癒されていた。

 リリーは凄まじい勢いで迫って来る飛来物を破壊し続けた。


 まだ、二人は戦っている。

 逃げる選択肢なんて持ってなかった。

 世界を守らずして何が勇者パーティーだ。


 無謀な戦いなのはわかってる。

 でも、勇者であるニーナが戦えない状況で一体誰が戦うというのだ。


 歯を食いしばり、術式を構築する。

 ギリギリ魔力は回復した。


 たとえ倒すことができなくとも、時間稼ぎはできるはずだ。

 稼いだ時間で勝てる方法を考える。


 眼の奥の血管が切れるような気がした。

 視界が赤く染まる。

 鼻から、赤い血が流れ始めた。

 息すらも忘れた状況で。


 一秒でも早く。

 無理を承知で、全力で術式を完成させた。


「いけぇぇぇぇ――――――ッ!! サラマンダ――――――ッ!!」


 炎で出来た、巨大な魔法陣が展開する。

 かつて見た時よりも神々しい姿で第一柱・聖精霊サラマンダーが召喚されていく。

 紅い瞳には闘志が宿る、凄まじい力を持つ火龍が――――――。



 ――両断された。



 咆哮を上げるよりも速く、まだ召喚すら終わっていない状況で。

 サラマンダーの胴体が真っ二つに割れていた。

 そのまま、光の粒子となって消滅していく。


 剣を振るった体勢で俺に視線を向ける魔精霊ウィルオウィスプは、最初からずっと変わらない、醜悪な笑みのままだ。

 アイツにとって、これは戦いですらないのか?


 は……はは……。

 時間稼ぎ……?


 あり得ないだろ。

 完璧な術式で召喚した聖精霊だぞ?

 それを一撃で殺してみせたのか……?


 こんなの、どうすりゃいいんだよ。

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