011 植民地予定地
「まだ倒せてないってことは、他に禁術魔法を使えるやつはいないのか?」
「今現在、禁術魔法を使えるのはアレクシス様とわたしだけです」
状況はあまりよくないようだ。
禁術魔法を使えるのは俺とリンシアのみ、しかも攻撃系統の魔法を使えるのは俺だけだから……。
決定打は俺しかいない?
帝国も上級魔法を使える魔法使いを大量投下してシルフィードを抑えているらしい。
ちなみに通常の魔法に分類される初級から上級と、禁術魔法には消費魔力に絶対的な壁が存在する。
初級魔法の魔力消費単位を一とすると、禁術魔法の消費魔力は一万だ。
膨大な魔力を持つ者は、大きな魔力で強力な魔法を扱うことは得意だが、小さな魔力で小規模な魔法を使うのが難しくなる。
ゆえに、どれだけ魔法を学ぼうと全く初級魔法を使えなかったわけだ。
「魔精霊が一体出現するだけでそこまで大変なんだな……。俺がイフリートを倒したから、王国は危機を逃れたってことか」
もう戻ることはないだろうけど。
一応、俺の生まれ故郷だ。
このままみんなが平和に暮らせるのが一番だと思う。
「いえ、多分王国は滅びますよ」
「えっ」
「魔精霊が出現した地域は魔王の魔力が色濃く染み込んでいるので。数日後には下級の魔物がポンポン出現するはずです」
それはかなりマズイんじゃないのか?
「王国は平和ボケして禁術魔法どころか、上級魔法の使い方まで忘れてますからサクッと滅びちゃうでしょうね。それに、アレクシス様に辛い思いをさせたのです、当然の報いですよ」
「……なんとかならないのか?」
ひどい仕打ちを受けたとはいえ、故郷が滅びるのは夢見がよくない。
「アレクシス様はお優しいのですね。まあ、下級の魔物は戦いの練習相手に最適ですし。王国に残された道は、帝国軍の訓練所として植民地になるぐらいでしょうか」
いや、植民地って……。
「というか、そんな内容を大声で喋っていいのか? 御者に聞こえてるぞ、この話が広がれば……国際問題になったりするんじゃ」
「問題ありません。御者も、この馬車も帝国のものですから」
「は?」
リンシアがそう言うと、馬車を操縦する御者が客席の覗き窓からサムズアップする。
見た目は王国の乗合馬車だったが、どうやらこの馬車……帝国の偽造馬車らしい。
魔精霊の偵察に来ていたリンシアの送り迎えするためのものだ。
王国と帝国の関係は険悪。
表立って王国を調査したいので入国させてくれとお願いしても拒否されるので、偽装工作を行って入国しているのだ。
つまり、密入国である。
俺が向かおうとしている帝国は……本当に大丈夫なのか?