103 第三柱・魔聖霊ウンディーネ
地平線の境界に、天まで続いている巨大な嵐が見えた。
今までみたどんな嵐よりも巨大で、恐ろしい。
今、俺は炎系統の禁術魔法で岩を溶かし、海の上に人工的に作った足場にいる。
敵の系統は水だ。
水の中では息ができないので、海から攻めてこられると圧倒的にこちらが不利である。
だから、陸地を増やして応戦することにした。
綺麗な風景だったプライベートビーチは姿を消し、黒い地面が一面に広がっている。
戦いが終わったらちゃんと原状復帰するから今は許してくれ。
嵐が近づき、強い雨が降り始めた。
同時に、宙を舞うあまたの巨人の姿も。
「ル゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛————ッ!」
以前、街に攻めてきた中級精霊よりも、遥かに大きい。
多分、上級精霊まで成長しているのだろう。
ここまで成長すると、魔王に強化される前の魔精霊シルフィード並みの強さがあるのではないだろうか。
それがわんさかと。
上陸されれば一瞬で複数の国が滅びてしまうだろう。
だが、そうはさせない。
強くなった俺達の力を見せてやろう。
大魔法使いの杖を振りかざし、オリジナルの禁術魔法術式を構築する。
繊細な術式であるが、俺にかかれば造作もない。
敵が起こした嵐を逆に利用してやるのだ。
空を敷き詰める分厚い雲の奥で、ゴロゴロと轟音が鳴り響き始めた。
さらにリンシアの補助により、術式に流し込まれる魔力の量が増加する。
直後、閃光が駆け巡った。
「ル゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛————ッ!?」
宙に浮かぶ無数の上級精霊を貫きながら、俺が操る雷が舞う。
遅れて、鼓膜が破れそうなほどの爆音が鳴り響いた。
どうだ、いい威力だろう。
今ので二十体ほどの上級精霊を撃ち落とせた。
「リリー、そっちの準備は」
「……まだ、もうちょっと」
今、リリーは先日アーネリアフィリスに授かった新しい禁術魔法の準備をしている。
リリーの禁術魔法は自身の強化に特化した補助系統の魔法だ。
リンシアの補助を受け、時間をかけて発動する禁術魔法の威力がどれほどのものなのか。
楽しみである。
それまで、俺が時間を稼ぐのだ。
再び雷を操り、さらに上級精霊を打ち落としていく。
が、キリがないな。
一体何体の上級精霊を生み出したんだ、ウンディーネは。
確か制限がないんだっけ。
実質無限だな、俺と同じだぞ。
というのは置いといて、嵐の本体が目前にまで迫ってきた。
宙を舞う巨大な上級精霊の中心に————ヤツがいた。
第三柱・魔精霊ウンディーネだ。
『ル゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛√﹀╲_︿╱﹀╲/╲︿_/︺╲▁︹_/﹀╲_︿╱▔︺╲/————ッ!!』
頭の裏にまで響き渡るような、悍ましい絶叫が響いた。
全長は二十メートルを超えているだろうか。
青く長い髪に、同じく青い肌。
魔精霊シルフィードに似た羽衣のようなものを纏っている。
目は赤く、憎しみに歪んだ表情をしていた。