102 その時は
「きゅおー」
「きゅるる」
「ぴゅおー」
俺の足元を、小さな三色のトカゲが走り回る。
「アレクシス、聖精霊の数が増えてない?」
「ああ、ちょっと召喚魔法に慣れてきたから同時召喚にチャレンジしてるとこなんだ」
練習の成果はきっちりと出ている。
ここ数日ミニサラマンダーを四六時中召喚し続けていたのが功を奏したのか、聖精霊の同時召喚が可能なほどに術式への理解が深まった。
ミニサラマンダーの他にミニジン、ミニリヴァイアサンを召喚している。
どれもミニサイズは愛嬌があって女性陣には人気のようだ。
俺もミニになりたい。
ただ、これだけ術式への理解が深まり効率よく構築できるようになっても、第四柱以降の召喚はまだ無理だ。
次元が違い過ぎないか?
ただ、もし第四柱を召喚できるようになったら聖剣を握ったニーナに匹敵するほどの力を出すことができるだろう。
そのころにはニーナは更なる力を付けているかもしれないが。
……付けていると信じたい。
ここ数日、ニーナも禁術魔法の練習を頑張っているが、どうにも上手くいっていないようだ。
強風が巻き起こり、みんなで飛ばされたり。
今度はリンシアが発情し、俺に襲い掛かろうとしたので強制的に転移して限界まで絞られたり。
……色々大変だった。
なんというか迷いが生じてるような?
魔法の発動は可能だが、術式を選ぶ際に自分でこれだと決めきれていないようだ。
こればっかりは俺にはどうしようもない。
自力で術式を選べるようになってもらうしかない。
いつ、魔精霊との戦闘になるのか分からないのだから。
「アレクシス勇爵様、ご報告が」
「うわっ! え、あ、ごめん。報告だって?」
急に密偵が現れたから驚いた。
未だに慣れないよ。
で、報告とは一体何だろうか。
「魔精霊ウンディーネが発生させたと思われる巨大な嵐が動き出しました」
ほら言わんこっちゃない!
動き出したということは、魔精霊ウンディーネの成長が一定値を超え、自由に動き回れるようになったということだろうか。
「詳しい状況を教えてくれる?」
「はい、速度としてはそれほど速くありませんが……一直線に公国を目指しているとのことです」
ほう、公国ね。
魔精霊ウンディーネに狙われた公国も大変だなぁ。
うん、知ってるよ。
ここが公国だよ!
ですよねー……。
「リンシア、リリー、聞いたか」
「ん、バトル」
「パワーアップしたわたしたちならきっと勝てますよ!」
二人とも、やる気満々の様だ。
「アレクシス……アタシ……。アタシも!」
「ニーナは今回見学、わかった?」
「で、でも!」
「気持ちはわかる、でもニーナは俺達の最終兵器なんだ。危険を犯すのは今じゃない、敵はまだ第三柱なんだし」
これから敵も第四柱・魔精霊、第五柱・魔精霊、そして魔王と控えている。
そのときまでにニーナが力を自分のものにできていれば問題ないのだ。
まだ完璧に力を使いこなせていない状態で無理をする必要はない。
うるうると目に涙を浮かべる姿も美少女だ。
自分が非力だと痛感する気持ちはよく分かる。
俺も通った道なのだから。
ちょっと改良した心象魔法を使い、俺の印象を操作する。
威圧や魅力とはちょっと種別の違う、相手の心にすっと入り込めるような雰囲気だ。
「ニーナ、俺達は仲間だ」
「へ……」
「仲間だからこそ、今はニーナを守る。そして、いずれ来る時の為に道を用意する」
だから。
「ニーナにできることをするんだ。俺にはできなくて、ニーナにしかできないことを」
赤髪の美少女は、目を丸くして俺を見つめている。
その頭をわしゃわしゃと撫で、ニーナに背を向けた。
「リンシア、リリー。行くぞ」
「ん」
「はい」
二人と手を取り、戦いに向けて足を進める。
「アレクシス! リンシア! リリー!」
背後で、ニーナが俺達の名前を呼んだ。
「アタシ、すぐ追いつくから! みんなの役に立てるよう、頑張るから! 待ってて!」
必死に、心の内に秘めている気持ちを打ち明けるように。
ニーナは叫んでいた。
「期待してるよ、勇者様。でもまずは、俺達の活躍も見ててくれ」