101 聖剣の真の力
「アレクシス、その……ごめん、ワザとじゃなくて……」
色々済ませて、ほっこりとした顔のリリーと共にプライベートビーチに戻ると、ニーナに謝罪された。
「あ、うん、次から気をつけような?」
「うん……」
むしろさっきまでニーナに対して欲情してたわけだから、何というか、俺もごめんなさい。
魔法のせいで仕方なくだし、心の中だけで謝っておこう。
「さて、次の魔法の練習をといきたいところだけど、また日を改めようか。一応禁術魔法の感覚は掴めたと思うから、後はしっかりと術式を選べるようにイメージトレーニングをした方がいいかもしれない」
「わたしもそれがいいと思いますよ」
「うん、ちょっと頭の中で練習してみる」
またとんでもない禁術魔法を放たれても怖いし。
とはいえ、ニーナを公族の屋敷に戻すにはまだ少し時間がある。
「そういえば、ニーナは剣を扱ったことって……ないよな……」
ニーナが気まずそうに頷いた。
引きこもりどうこう以前に、公女殿下が剣を握る機会というのはそうないだろう。
ま、俺も剣なんて使ったことないんだけど。
だが、彼女は今勇者だ。
腰には帝国で引き抜いてきた聖剣カラドボルグを吊り下げている。
「いずれ使いこなさないといけないし、練習してみるか?」
「やってみる」
まずは素振りぐらいからでも始めておいた方がいいだろう。
ニーナは鞘から聖剣を危なげな様子で抜き、腰の引けた状態で構えた。
筋力が少ないせいか、手がプルプルと震えてる。
禁術魔法の肉体強化を使ってみてはどうかと提案しようとしたが……何だか嫌な予感がしたので止めておいた。
ふらつきながらもニーナが聖剣を天に掲げ、振りかざした刹那。
凄まじい衝撃を感じた。
あれ、今何が起こった。
何が起こってる。
どういうことだ。
海が、真っ二つに割れている。
ニーナの地点から、一直線に、地平線の彼方まで水の存在しない谷が海に出来上がっていた。
「ふ、ふええええええええええ————————っ!?」
叫びたい気持ちも分かるが、叫びたいのはこっちだ。
その威力はおかしいだろ!?
華奢な美少女がふらつきながら聖剣を振り下ろしただけだぞ?
それだけで海を真っ二つに割るほどの衝撃が起こるのか?
強引に割られた海水は、谷に向かって一気に流れ込み、白い飛沫を飛ばす。
これが聖剣カラドボルグの威力、勇者の力だというのか。
使いこなすことができれば確かに魔王を倒す事ができるかもしれない。
……使いこなすことができれば。
ニーナが海に向かって素振りをしてよかった。
もし街の方向へ剣を振っていれば公国が滅びていたかもしれない。
あぁ、頭が痛いぞ。
「……今日は、これぐらいにしとこうか。また明日から頑張ろう」
俺の言葉に反対する者はいなかった。