010 別の魔精霊
しかし、あれほどの威力の魔法を使わなければ、魔王というのは倒せないのだろうか。
かつての勇者の物語はベストセラーとして各国に広がっている。
がしかし、魔王が倒されたのはそれなりに昔の出来事であるため、物語の内容はかなり脚色されている。
勇者の描写も、聖剣と凄まじい魔法で敵を圧倒したなどと簡素化されており。
実際はどんな魔法を使っていたかなんて、誰も知らないのだ。
まだ信じ切れないけれど、俺が使った魔法が、勇者たちが使っていた禁術魔法であると。
確かに、魔王を討ち滅ぼすだけの威力を持つ魔法ならば、炎の巨人……魔王配下の魔精霊イフリートを倒せたのも納得がいく。
しかしだ。
いくら強力な魔法とはいえ、魔王配下である魔精霊を一撃で倒せたりするものなのか?
いかにも強敵という見た目をしていたが。
「なあリンシア」
「はい、どうされましたか」
「俺が倒したのは本当にイフリートで間違いないのか?」
「ええ。間違いなく魔精霊の一柱、イフリートでした」
キリッとした表情でリンシアがそう宣言する。
どうやら、魔精霊というのは他の地域でも出現が確認されているらしい。
悲惨な状況であることから、おおやけにはなっておらず。
王国からは遠く離れた場所での出来事であり、被害があった地域と帝国以外にはまだ情報が伝わっていないとのこと。
事実、俺の前にも魔精霊が現れたのだから真実なのだろう。
それで、俺がイフリートを一撃で倒せた理由。
答えは簡単でイフリートが復活直後で力を取り戻していなかったからだ。
人間も魔精霊も、産まれた瞬間は弱い。
だからこそ、俺の放った禁術魔法で一撃だったようである。
しかし、産まれた瞬間から初級魔法であるファイアボールで地形を変化させるほどの威力。
もし成長して力をつけていれば、俺一人で倒すことが難しかった可能性もあるとのこと。
「アレクシス様、お手柄です。これもきっと神のお導きなのでしょう」
「ちなみに、他の地域で出現した魔精霊はどうなってるんだ? 倒せたのか? というか、魔王は?」
俺の質問攻めにリンシアは一つ一つ、丁寧に答えてくれる。
まず、魔王はこの世界のどこかで復活をとげ、現在は姿を隠して力を蓄えているとのこと。
帝国も全力で魔王の捜索をしているが、まだ見つけられていない。
魔王復活に準備は行ってきたが、また倒されてなるものかと魔王も一筋縄ではいかないようだ。
次に魔精霊。
イフリートとは別の、“魔精霊シルフィード”の出現が確認されたそうだ。
突発的な出現で、近くに俺のような禁術魔法を使える者もおらず、現在も力を付け続けているらしい。
なにやら一国が滅びたとか。
今は帝国が全力でシルフィードを抑え込んでいるらしいが、状況は拮抗している。
俺も帝国に所属すれば、シルフィード討伐に派遣されるだろうとのこと。