002
002
おあずけを食らっていた分のラーメンを食したことで、俺の意識は普段の自分の世話をするモードになってきた。
ヤク中がキメた後は落ち着いて会話ができる様になるやつだな。ラーメン後は冴え渡るわぁ~。
気づけば街をラーメン店を探しながら歩いていた。やっぱり中世ヨーロッパみたいだね。説明いる?強いて言えば店が光ってないので分かりづらいくらいだ。
「嬢ちゃん、あんたホントに一人だったのか。危ない。ちょっとウチに来てくれ」
聞き覚えのある声、振り返ると前掛け付けたままの店主がいた。店裏の店主の家へつれてかれる。
テーブルに座らされて、茶が出た。番茶っぽい。飲む。味も番茶っぽい。ええぞー。
「でな、嬢ちゃん―」
店主はガリオン。38歳。妻子持ち。熊獣人らしい。よく見ると熊の耳生えとるわコイツ。
ここはシリオ大陸、共和国シリオ領内、首都シリオの城下町から馬車3日の距離の山沿いで運河の通る、貿易と資源採集、鉱山も近いイイ立地の街、ベルポス。城塞都市っぽく発展し、軍も駐屯してるんだって。領主はマーフィス・モルドフィル。まぁ可も無く不可も無く、世襲で継いでよろしく領地経営している58歳おっさん。
この世界の常識を店主からダウンロードする。金銭は、鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、ミスリル貨と十進数で繰り上がる。
まぁまぁ、味の付いたちょっとイイ総菜パン一個で銅貨一枚程度。100円、一ドルくらいだねー。
世界で流通してる硬貨はかなり小さいよ。名前の違う大きい金貨なんかもあるっぽい。
文明レベルは平均的に中世から近世手前くらいかな。魔法があるよ。魔物が居るよ。魔王も居るよ。魔族とは存在同士が必ず殺し合う訳では無い感じ。種族が違うから、敵対関係はしょうが無いって感じ。共通語の言葉は通じる。交渉、交易は出来てる。大陸毎に棲み分けてる感じだね
ここ、シリオ大陸はシリオ共和国とその傘下の同盟国で構成されている。獣人が多め、同じくらい普通の人、エルフ、ドワーフと続く。魔族もチョコチョコ居るってさ。獣人が千差万別だから、他種族への偏見はそんなに無い。
王族、貴族と戦争奴隷、借金奴隷、犯罪奴隷が居るよ。まぁ予想通りの感じですよ。
俺が召喚されたのは中央大陸、タンベルト王国。
ちなみに俺は全ての言語が話せて読み書きできるっぽい。
冒険者ギルド、商業ギルド、魔法ギルド、色々あるよー。
「てな訳だ、嬢ちゃん。ほんとに物を知らないな」
「そうなんよー。まぁラーメン食えれば俺はそれで良いんだ」
「ラーメンとは一体、…・」
俺の事も聞かれたが、よう分からんわ、気づいたら居たわって感じよ。
「それでだ、嬢ちゃん、これからどうする?」
それなー、アレだろ、冒険者になれよって流れだよな完全に。鈍感系主人公じゃあるまいし、分かってんのよ。でも、やる意味があんまり見出せないんだよな。
だが、魔物の素材の店主のラーメンモドキ、旨かった。これは冒険者になって魔物狩って至高のラーメン作る流れなんだよな。未知の旨いラーメンを念じても出てこないし。俺はこの世界の食材でラーメン開拓して極めるしかないんだ。
外国人の日雇い派遣ビザくらいの吹けば飛ぶ身分の冒険者、でも誰でもなれる。Sランクになれば一角の身分らしいしなぁ。完全にお膳立てされてるわ。至高のラーメンロードがな。
「でもさ、俺幼女じゃね?」
「それなぁ、嬢ちゃん、良くて8歳くらいか?」
「うーん」
鏡で確認。金髪の人形みてーな幼女だわ。
「店主、昔は冒険者だったんでしょ?コネとかでねじ込めない?」
「やっぱウチで店を手伝わないか?」
あ、そういう、ちょっと冒険者の話して、チラつかせといてやっぱ引っ込めるっていう。心得てんなぁ。
次の瞬間、ガリオン店主はラーメンどんぶりに突っ伏していた。かわいそうなので中身は無いよ。
「なんだ、これ、う、動けん。何も見えん。これどんぶりか?ぐぅううう~」
「これが俺の力だ。その気になれば店主は一瞬で熊ラーメンに変化する。抵抗は無駄だ」
「……やべぇ、なんだラーメンって」
「食い物だ」
店主はブルった。
冒険者ギルドに来たぞ。
どいつもこいつも、不良に鉄パイプ、キチ○イに刃物、世紀末ヒャッハーな出で立ちでこっちにメンチ切ってくる。
だか店主を見て『勝てねぇ…』って悟って目を逸らす。店主は熊さんが二足歩行したみてーな図体だ。こんなん絶対強いわボケが。だが、ラーメンの食材になる可能性を秘めている。所詮は具材よ。つまりラーメンには勝てないって事だね。
受付はきれい系半熟女一歩手前。
バインバイン姉ちゃん、顔も整ってるがアホっぺー。
隣に若い衆の男モブが突っ立ってる、興味ねぇ。
あと白髭じいちゃん、魔法凄そう。
そして猫獣人っぽい女、アキバに居そう、かなりの完成度。
今は店主が店を閉めてそろそろ陽が落ちる時分。並び人数は想像しろ。
俺を肩に乗せている熊さんが迷い無く、若い衆のモブ男の所へ並ぶ。ええ?確かに並び人数少ないし処理速度も速そうだけどさぁ~。
普通そこはバインバインねーちゃんか猫にゃんの所ダルルルォオオーン?
俺はバインバインねーちゃんの方に店主の首を向けた。力そんなに入れてないのに、首が取れそうなヤワさで店主の首が動いた。大丈夫?首取れてない?よし、取れてない。
「あっちだ、ラーメンになりたいか?」
我らが一行の尋常ならざる圧を感じてか、背後を振り返った冒険者が、そそそっと別の列に並び直す。
へへっ、悪いな。気の利くやつは「俺ちょっと便所行ってくるわ」と言って退く。
うむ、くるしゅうないぞ。
さっきまで「あーい、そざいですねぇー?」とか言ってたバイン姉ぇが俺の番になるといきなりキリッとした。
「ようこそ冒険者ギルドへ。本日はどのようなごようけんでしょうか?」
「あそこで麺の店を出しているガリオンだ。今日はこの子の冒険者登録をしに来た」
「は、はい。失礼ですが。お名前とお歳を、お聴きしてもよろしいでしょうか?」
名前な、女の子だからなー。
「わたし、タンタン・ラーメン!たぶん、はっちゃい!」
よし。完璧じゃ。ついうっかり幼女ロールプレイしてしまったわ。
「あー、ハイ。カシコマリマシタ。少々お待ちください」
少々待っていると奥から如何にもなおっさんがやってきた。ガチムチで帯剣してる。ギルマスかな?不機嫌ですって顔してる。
貴族のぼんぼんのガキが道楽で登録とか舐め腐りやがって、ここは遊び場じゃねーんだよ。分からせてやるって顔だな。
「あ、ガリオンさん、こんばんは。えーと、今日はその女の子の冒険者登録と言うことで、色々とお聴きしますので、奥へどうぞ」
店長にビビったな。
魔物だかなんだかの死体を掻っ捌いて加工してるスペースの隣、砂地の広場に来た。
「えーと、タンタンちゃんは冒険者ってどういうお仕事するか、知っているかい?」
「魔物倒す?傭兵崩れの日雇いの便利使いの鉄砲玉っしょ?」
「ふむ、なかなか、分かっているね」
若い衆がでっかい犬を連れてきた。
「あの犬が魔物の底辺だ。アレと戦って貰う。勝てなくても良いが、戦いにならない様なら貴族であっても冒険者登録は許可できない。準備をしたまえ。危なくなったら止めに入る。怪我をしたくないなら登録は諦めてくれ。どうする?」
「もう殺した。殺した?まぁ倒したぞ」
そこには机が出現し、ラーメンがあった。
「ん?ワイルドドッグは?」
「ラーメンになった」
「ラーメンとは?」
「あのどんぶりの料理だ」
「……」
「お前もいつでもラーメンにできる。気を抜いたら、ラーメンだ。うまいぞー」
「……」
なんやかんやあって冒険者登録できた。
登録情報の特技欄は『ラーメン』。