プロローグ
── 2028 12 25 ──
クリスマス。
雪が降り頻り、子供は雪やサンタクロースに喜び、大人は色々と苦労する日。そんな日に1人集団に追いかけられている『PIERROT』が居た。
「はぁ.......」
「お前らしつこすぎ」
「「「「..................」」」」
反応は無いか。
いきなり数人の男達が、まるで操り人形の糸が切れたかの様に一斉に膝から崩れ落ちた。そんな演劇のハプニングを楽しそうに見ながら1人のピエロが佇んでいた。仮面を被っていて表情は窺えないが無表情なんだろう。
既にこの町、この国では 『PIERROT』の噂は広まりつつある。あくまで都市伝説レベルでの噂だが、確かにこの国での行方不明者は明らかに増えていた。それがこのピエロの仕業なのかは誰も知らない。
「ねぇねぇ、優斗。『PIERROT』って知ってる?」
「あぁ、最近噂になってるやつだろ?」
「そうそう。それなんだけどまた行方不明者が増えてきたらしいよ」
「結衣も気をつけろよ。夜中1人で外なんか歩いてたら絶対攫われちまうからな」
「えぇ〜。じゃ〜、優斗の家泊めて?一人で帰るの怖いもぉ〜ん」
はぁ.......。
人前でイチャイチャしやがって、これだからクリスマスは嫌いなんだよ。
何時だと思ってんだこいつらは。
ある意味肝が据わってるのか??
「え.............?」
「あ.............」
そんな事を考えていると、彼女達の前に一瞬不思議と見惚れてしまいそうな格好をして、笑った仮面を被った『PIERROT』が居た。
「え...........」
気づいた時には2人は既に倒れていた。
僕は悟った。ここまでだな、と。
あの噂の殺人鬼の『PIERROT』が目の前にいるんだ。しかも目の前で決定的瞬間を見てしまった。見逃される訳がない。
それでも、僕は見惚れてしまっていた。
凡人には100年掛けても分からない程の殺しのテクニックに。
「殺してくれ」
最期にそんな死に方を出来るなら本望だ。
このまま衰弱死するよりは何万倍も良い。
こいつの殺しのスキルをこの身で感じられるんだ。早く、早く殺してくれ。
そんな俺の考えは届かずピエロは僕の目の前を通り過ぎて行く。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!殺してくれ!お願いだ!」
傍から見たら頭のおかしな事を言っている
様にも見えるが僕はどうしても殺して欲しいんだ。あの二人を殺した様に。
「.........」
そんな僕の狂気じみた一生のお願いを無視してそのピエロは消えた。
「────ボトッ」
雪が降り頻り、カップルがイチャイチャする日、そんな皆が幸せを感じる日、また『PIERROT』による犠牲者が7人も出てしまった。