脅威
「嫌なら断っても良かったんですよ?」
俺の必死の抵抗は無駄に終わった。いくらこの俺でも鬼は敵わなかったのだ。
「断れる雰囲気じゃなかっただろアレ」
「そうでしょうか?」
今俺は、マリーと共に学校へと歩いている。
え? 関わっちゃいけないんじゃなかったのか?
仕方ないじゃないか。あの紳士なお兄様に頼まれたんだから。
「でも、良かったのか? 彼氏役が俺で」
「全く問題ありません。響さんはとても素敵な人ですし。むしろ、こちらこそ私の問題なのにご迷惑をおかけしてすみません」
昨日、シン・マリー兄妹が我が倉本家へと襲来し、夕食を共にしてから帰ろうとした時、マリーの兄、シンが突然言い放ったマリーの彼氏にならないか発言。その真意は本物の彼氏という意味ではなく、偽物の彼氏、いわゆるマリーの男避けになってくれというものだった。
「別に迷惑だとは思ってねえよ。少しでも俺が役に立つならそれに越したことはない。前の学校では大変だったんだろ?」
「まあ、それなりに」
やはりマリーはその容姿ゆえかなりモテるらしい。それ故に前の学校では告白が後を経たなかったとか。
「まあ、彼氏役を引き受けた以上やるべきことはやらせてもらうよ。じゃないとあのお兄様に何されるかわかんないからな」
もちろん今回の頼みを断るという選択肢もあった。だが、あの時のシンの目はやばかった。どうやばかったかというと、とにかくやばかった。無理のむ、いやMの文字でも言ってみろ間違いなく、俺の首は飛んでいた。
それに加えて、あの鬼もいたのだ。あの有無を言わせない表情は言外に「ただでさえ社会のゴミのお前なんだから少しは人様の役に立て」という意味を含んでいた。
「そろそろ学校が近づいてきましたね」
「ああ」
いよいよだ。転向してきたばかりの美少女を連れての登校だ。まず間違いなく殺される。え? 言い過ぎだ? 何言ってんだ、いついかなる時も最悪の想定はしておくべきだろ。