狂罪
「あいつなんでいるんだ」
説明しよう。今俺は家の前の電柱の影に隠れている。なんでって? 決まってんだろ。あの女、マリーがいるからだよ。
今、何故か俺の家の前に金髪ハーフ美少女マリーさんがいらっしゃる。マリじゃなくてマリーだとかなんとか言っていたが十中八九手紙に書いていたマリというのはマリーのことだろう。だって偶然にしてはできすぎてやがるからな。にしても、手紙の通り実行しても出会っちゃってるじゃねえかよ。なんなんだあのポンコツ手紙は。一体誰が書いたんだ全く。あ、俺でした。てへぺろ。
ってそうじゃなくて今はマリーをどうするかが最重要問題だ。よし、一旦引き返そう。
「あんた、何してんのよ」
引き返そうと振り返った先にはラスボス''おかん''がいた。だめだ、終わった。
「いや、これはだね」
とにかくどうにかしてマリーのことはバレないようにしなければ。
「あら、あそこにいるのマリーちゃんじゃない?」
だめだ!! 即ゲームオーバーかよ!!
「マリーちゃん!!」
そう言って母は家の前に立っていたマリーの元へ向かう。マリーもどうやらこちらに気づいたようで手を振っている。
時は経って夜。
今俺は夕食を食べている。うちの食卓には今四人が座っている。あ、勘違いしないでほしい。父と母、俺と妹という感じではない。そうだな、言うならば母と息子、兄と妹、と言ったところだろうか? 意味がわからない? すまん俺にもわからないんだこれが。母と息子は皆さんの予想通り、俺とゴリラおかん、そして問題の兄と妹は、マリーとマリーの兄のことである。はい、意味がわかりません。どちら様ですか? 不法侵入罪で訴えますよ?
ことの経緯は至って単純だ。今朝のことを聞いたマリーの兄が俺に礼を言いに来た。ただそれだけだ。単純だろ? え? 余計わからんわ? 単純だとは言ったがわかりやすいとは言ってないよ俺は。
「にしてもやっぱりあんたマリーちゃんと知り合いじゃなかったんじゃないの」
「え? いやそんなこと言ったかな。ははは」
ははは
「まあでもそのおかげで私は学校にたどり着けたのであまり響君を責めないでください」
「ええ、その通りです。響君はきっとマリーが困っているのに気づいて気を遣わさないようそう言う振る舞いをしたのでしょう」
凄く俺を過大評価してくれているのはマリーの兄、シンである。年は聞いたところマリーの三つ上だそうだ。シンといえば手紙にそんな名前が書いてあった気がするが、気のせいだよな? うん気のせいだ。
「そういえばこんな美味しい夕食をいただいてしまったのですがよろしかったのですか?」
「いいのよマリーちゃん。菜摘は今日は外で友達と食べてくるって言ってたから」
何!? あいつ夕食まで友達が同伴だと!! 最近の子は一人で飯も食えんのか全く!! お前も一人じゃねえだろとかいうツッコミは受け付けません。
「菜摘さんとは?」
「ああ、妹のことだよ」
「妹さんですか。でしたら私の家と同じ家族構成なのですね」
「なんだ? マリーも父親がいないのか?」
「え?」
「ん?」
「あんたねぇ」
あ、やっちゃった感じ?
「ごめんなさい。気がつかなくて」
「ああ!! いや気にしなくていいから。ごめん変なこと言っちゃって」
「そうよこんなバカ息子のバカ父親のことなんて気にしなくていいのよ」
「誰がバカ息子じゃ!!」
「うふふ、ありがとうございます。やはり、お二人は優しいですね」
「俺が優しいのは全世界の皆さんが知っているよ」
「やらしいの間違いでしょ?」
「な!? 息子になんて事言うんだあんたは!?」
「プッ、アハハハハハハハ!!」
マリーは大笑いし出した。気まずい雰囲気は少しは和らいだようだ。
「今日はお邪魔いたしました。こちらがお礼を言いに来たつもりなのにご馳走になってしまって」
マリーは玄関で靴を履いたあと、振り向いてそう言った。
「いいのよ。楽しかったんだから。また来て頂戴ね。ね、響?」
「あ、ああ。待ってるよ」
これはあれだ、いわゆる社交辞令ってやつだ。だから問題ない、はずだ。もうマリーには関わらない。そうしなければならない。あいつのためにも。
「ここまでお世話になって申し訳ないのだが、響君、一つお願いしてもいいかな?」
突然シンがそんなことを言い出した。
「なんですか?」
「響君」
「はい」
急に改まってなんだ? なんか嫌な予感がするんだが。
「マリーの彼氏になってはくれないだろうか?」
「......はい?」
ほらな? 悪い予感的中だぜ。