この子はマリーであって決してマリではない、はず。
「あ、あの!!」
突然後ろから声がする。
「はい?」
俺は立ち止まり、振り返る。
そこには、耳を赤くして伏し目がちにこちらを見ている美少女の姿があった。やば、今キュンとした。何、俺告白されちゃうの?
「あの、その、手」
そう言って彼女は自分の手を見る。
「手?」
彼女が向けた目線の先を見ると、そこには彼女の手をしっかりと掴む俺の手があった。え?
「ご、ごめん!!」
俺はすぐさま手を放し、謝る。
「いえ、気になさらないでください。それより、今から学校へ向かわれるのですよね?」
え? 許してくれるの!? 通報されないの? まじエンジェル!!
「ん? ああそういや学校までの道が分からなくてうちを訪ねたんだっけ? 遅刻になると思うけど一緒に行こうか」
そう言って俺は歩き出す。しかし、
「え?」
彼女の声に立ち止まる。
「あれ? 違った?」
それとも俺と行くのが嫌な感じ? 泣いちゃうよ俺。
「いえ、違わないんですが、私言いましたっけ?」
彼女はコテっと首を傾げる。何ソレ可愛い。
「道をお尋ねしたいって言ってなかったっけ?」
「ええ、確かに道をお尋ねしたいとは言いましたが、学校への道とは言っていませんよ?」
「いや、この時間にその制服を着てその学校の近くのこの辺りで道を尋ねてるんだからわかるでしょ?」
「いえ、その制服を着ているのに、学校がわからないなんておかしくはありませんか?」
「いや、今日は入学式の日なんだからおかしくはないでしょ?」
そう言うと、美少女はピシッと顔を強張らせる。
「まさかとは思いますが、私を高校1年生だと思ってます?」
「え?違うの?」
え? もしかして3年生? 年上?
「違います!! あなたと同じ2年生ですよ!! ほら、校章の色が同じでしょう?」
うちの高校は学年によって付けている校章の色が違う。1年生は赤、3年生は緑、俺たち2年生は青である。そして、彼女が付けているのは俺と同じ青。つまり、2年生であることを意味している。
「あれ、ホントだ」
校章だなんて全く気にしてなかった。
「全く、失礼ですよ。私を1年生だと思うなんて」
プンスカと口を膨らませて言う。何ソレ可愛い(2回目)。
「ごめんごめん、見かけたことがなかったからさ。もしかして転校生とか?」
「ええ、そうです。誰かから聞きませんでしたか? 一度春休み中に学校に行ったのでその時に学校の人に見られたと思ったのですが。最近はそういう情報はすぐ広まるものではないのですか?」
「あはは、いやー聞いたことなかったな」
友達のいない俺にそんな話をしてくるやつなどいない。
「そうですか、あまり広まってないんですね。少し自意識過剰でしたか。お恥ずかしいです」
「いや、あんまり気にしない方がいいと思うよ」
おそらくかなり広まっていることだろう。こんな美少女が転校してくるというのだから。ていうかだったらこの状況やばくないか? 学校に置かれた挙句に超絶美少女と登校。ぼっちから急激に時の人に格上げ!! あれ、いいことなのか? いや、そんなことはない。絶対白い目で見られること間違いなし。特に男どもから。
「お優しいんですね。えっと、そういえばあなたの名前を聞いてなかったですね。なぜか私の名前は知っていたのに。だからてっきり名前まで広まっているのかと思っていたのですが」
ん? 名前?
「あれ? 合わしてくれたんじゃなかったの?」
「合わす? なんの話ですか?」
「いや、さっきの俺と君が友達で待ち合わせしてたって話なんだけど」
「ああ、てっきり人類皆友達の考え方をしている方なのかと。待ち合わせは私が覚えていないだけでしていたのではないかと思っていたのですが」
「いやすごく都合のいい解釈をしてくれたんだな!?」
っていうかこんなんでこの子、ナンパとか大丈夫なのか?
「それよりもどうして私の名前を知っていたんですか? それとあなたの名前を教えてください」
「俺の名前は倉本響。君の名前は適当に思いついた名前を言っただけなんだ。だから君のファミリーネームの方は知らない」
「そうなんですか。それはすごい偶然ですね。それに、ファミリーネームって、うふふ。気を遣わずに苗字でいいのに。私は父が日本人、母がイギリス人のハーフですので姓は父のを使っているんです」
そう言うと、彼女は姿勢を正し、俺の方にきちんと向き直る。
「それでは改めまして自己紹介を。私の名前は千堂マリー、先ほどのようにマリちゃんと読んでもらって構いませんよ? ひびき君」
そう言って楽しそうに天使のような笑顔を向けてくる彼女に、俺が思わず見惚れてしまったのは言うまでもない。
ていうか、マリちゃんってまさか、な?