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「神父様は何故この世から
銃が無くならないと思いますか?」
神父はこの質問に戸惑っていた。
重犯罪を起こした犯人は直情的な人間が多い。
故に質問を問われたのは初めての経験だった。
その戸惑いをよそに、
壁の向こうの女性は静かに話を続けた。
「銃の乱射事件が起こった時、
神父様もご存知のとおり、
必ずと言っていいほど銃規制の話が上がります。
でも世界から銃は無くならない。
神父様は何故だと思います?」
質問して答えを促す。
これは答えは決まっていて、
それを相手に諭す時に使う聖職者の論弁だった。
神父はまるで、
自分が説法されている気分になっていた。
いい淀んでいる間に彼女は話を続けた。
「銃の乱射事件が起こった時、
無くなるどころか逆に銃が売れる。
銃規制が始まる前の駆け込み需要と言うのが、
一般的な見解ですが。
それも一理ではありますが、真実ではない。
私はこう思うんですよ先生。
人間は自分を守る権利がある。
法で守られた人権が。
それが法で守られない時、脅かされた時、
人は自分を守る為に銃を求める。
法は自らの権利を守って貰えるからこそ、
人はその法を守る。
でも自分の権利を守って貰えず、
犯罪者の権利だけを強者の利益だけを
守る法があれば、人はその法を守るでしょうか?」
この論法は良く犯罪者の論弁で出てくる議題だ。
これに対する答えを神父は持っていなかった。
法では守られない魂があるからこそ、
人は神に導きを求める。
神父は彼女に話の続きを求めた。
「それで」
見えない彼女は静かに続けた。
「強者だけ守られる法は、
強者にしか受け入れられない。
その法は強者しか守らない。
世界中でテロが無くならないのは、
強者の法を強要した先進国のエゴだとは、
思いませんか?」
神父は自分が今どこにいるのかわからなくなった。
確か罪に悩む子羊の懺悔を聞く
場所だったはずだが・・・
いつの間にか神父は、自分が懺悔室で、
罪と向き合っている気分になっていた。
異質。
恐怖。
神父はいつの間にか額から流れた汗を拭い、
自分がこの見えない相手に対し、
どこか異質な恐怖を感じているのを感じた。




