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「そんな事情が」
エリック様に私がこの村で暮らす事になった経緯を簡単に説明した。
もちろん、私が本当に魔女である事や大伯母さまの事は伏せてだ。
「王女様に魔女だと呼ばれてしまった以上、私に居場所はありませんから。でも縁あって棲家に恵まれました」
私の話を最後まで黙って聞いていてくれたエリック様「そうですか」と短く呟いた。
「ずっと心配していたんだ。あの場で、ユーディ…ユディ殿があのような事になったのには私にも責任があると」
「そんな」
「魔獣から人々を守るのが聖騎士の役目。なのに私は、魔獣があの場で騒ぎを起こすまでその存在にすら気が付かなかった。不甲斐ない」
眉間にしわを寄せ、絞り出すように呟く彼の表情は何か痛みをこらえるようでもあった。
「あの騒動の後、手紙を書いたのだが……」
私が現実を受け入れるまでの1ヶ月の間、騒動を聞きつけた各所から手紙が山のように届いていたのを思い出す。
興味本位な手紙は基本無視し、立場がある人達へは父が代筆で「娘は魔獣に遭遇したショックで寝込んでいるのでそっとしておいてほしい」というオブラートに包みまくった返事を出してくれたと聞いている。
リストを見るかと訪ねられたが、そんな気も起きなかったのだ。
「私はずっと寝込んでいて……それは失礼な事をしました」
「あの状況を考えれば当然だろう。こちらも色々な後始末で長い間大混乱だった。ようやく、貴女の様子を確認に行ってみれば療養のため不在だと言われてしまい、事実貴女はもういなかった」
「それでわざわざここへ?」
でもよくここがわかったものだと不思議に思う。
父母ともしばらくは連絡を取らない方がいいだろうと、私は静かな生活を送っている。
手紙で時々近状を伝え合ってはいるが、それだって村長さんを介してだ。
「…………実は、多少卑怯な手を使った」
「え?」
「ツテを辿り、商人などから情報を集めたんだ。そして、この村宛ての荷物を定期的に送っている事を突き止めて」
「まぁ」
「療養先は誰も知らないと言うし、騎士にあるまじき失礼な行為だとは思っている」
失礼というか突拍子が無いと言うか。
いくら心配だからと言ってそこまでするだろうか。
どうしてですか、と聞こうとしたが上手く言葉が出てこなかった。
白状すれば、エリック様の事など今の今まで忘れていた位だ。
魔女だと騒がれた事件の事は忘れられないが、前世の事やセオの事、ここの暮らしのことでいっぱいいっぱいだったので聖騎士様が私の事を気に留めているかの世なんてちっとも考えてはいなかった。
私が本当に魔女だったかどうかを確かめに来たのだろうか。
だとしたら非常にまずい。
聖騎士は魔獣や魔族、つまり悪魔から人々を守るのが仕事。
私が正真正銘悪魔に気に入られた闇属性を持つ魔女だとわかったら……
先程、あっという間にのされてしまった男たちの事を思い出して血の気が引く。
「ええと、エリック様」
「なんだろうか」
酷く喉が渇いている。
何か余計な事を言うと墓穴を掘りそうだし、かといって何も言わなければジリ貧だ。
さあどうするかと考えていると、前世の記憶が頭の中に閃いた。
こういう時はとにかく明るく振る舞って自分の意見を押し通してしまえばいいのだ。
勢いで押し通せば案外何とかなる。
今日は本当にお金ないんですよあはは!の勢いで借金取りにお帰りいただけたことだってあるのだ。
「私はですね!先代の後を継いでこの街で薬を作って売っているのですよ!!」
「薬か」
「そうなんです!ありがたい事に魔力量が多いので色々な薬を調合することができるようになりました!先代のレシピが素晴らしいのです!なので、先代と同じように私も善き魔女と名乗っております」
「善き魔女」
エリック様は魔女、という単語に少しだけ反応したが私の勢いに負けたのか驚きの混じった表情で私を見ている。
嘘は何も言っていない。この勢いなら、と確信して私はさらにまくしたてた。
「そうなのです。先代が薬を作って売りだす際に魔法を使って薬を使ったことから魔女だと呼ばれるようになって。噂される悪事を働く魔女と混同されないように、善き魔女だと名乗ったのだとか。私も先代のレシピを受け継いでいくからにはその名を継承いたしました。先ほどの連中は私の薬で暴利をむさぼろうと脅しをかけてきたんですよ!」
早口でこれまでの流れを一気に説明する。
多少戸惑ってはいるようだが、何となく理解はしてくれたようで「なるほど」と頷いてくれた。
「……この村によく効く薬を作る魔女がいる、という話は私も伝え聞いた。それがユディ殿だったとは」
「あははは」
とにかく笑ってごまかす他はないだろう。
シリアスな空気を作ると負けだ。
「君がここで元気に暮らしているようで安心したよ」
エリック様がふわりと微笑んでくれた。
その笑顔はあのお茶会で見た者となんら変わらず、綺麗だ。
その裏表を感じさせない雰囲気に緊張が抜けていく。
もしかして本当に私を心配してきてくれただけのだろうか。
「ありがとうございます」
優しさには感謝を。私が静かに頭を下げれば、エリック様は少し驚いたような顔をした。
「お礼を言われる事など何も。むしろ若い女性の住まいに押しかけた無礼をお詫びしなければならない」
「いいえ。エリック様は2度も私の危機を救ってくれたじゃありませんか」
そうだ。あの日だってエリック様が魔獣を倒してくれた。
今日だって彼が来なければあの連中はいつまでだってあそこに居座っていただろう。
「ああ……塀の外で倒れている連中の件なら心配いらない。先ほど、一番近い警備隊に連絡しておいた」
屋敷に入る前に、エリック様は倒した連中に捕縛魔法をかけていた。他の入り口を探しに行った者も数人いたが、帰ってきて自分たちの仲間がのされているのを見れば逃げてくだろう。
「お手数おかけします」
「いいんだ。君の助けになれたのなら幸いだ。だが、このままというわけにはいかないだろう」
「……そうですね」
家に押しかけるというあからさま過ぎる直接的な攻撃を仕掛けてくる連中だ。
この先も放置しておけば何かしかけてくる可能性は高いだろう。
「でもこれ以上エリック様のお手を煩わせるわけにはいきません」
なんてったって聖騎士様だ。
というか、今更過ぎるが聖騎士様ともあろうお方がこんな辺境の村に居ていいのだろうか。
彼の態度から魔女狩りに来たとは思えない。
本当に私を気にかけてきてくれたのだとしても、忙しい身の上で何故。
急に真顔になった私の様子に、エリック様は苦笑いを浮かべる。
「そんな難しい顔をしなくても大丈夫だ。君の事が心配だったのもあるが、こちらにはある調査で来ているんだ」
「調査ですか?」
「ああ」
真剣な顔をした彼が真っ直ぐに私を見た。
「この付近に悪魔が出るという話を聞いたことが無いか」
今度こそ本当に叫び出さなかった私を誰か褒めてくださいお願いします。




