12
日が高くなってきたので、ルイザに食事の片づけだけを頼んで村長のところへ挨拶に行くことにした。
眠っている双子を置いていくわけには行かないし、子供たちを連れ出すのは同居人であると根回しをしてからの方が安全だろう。
ここならば屋敷妖精もいるし、安心だ。
昨日、村に着いた時には夕暮れだったので人気は少なかったが、昼間はそれなりに住人が行きかっている。
旅人も珍しい街によそ者の若い娘が一人で出歩いているのはかなり目立つらしく、不躾な視線が突き刺さる。
魔女としての人生を歩むのならこれくらいの事は我慢と言い聞かせて、鋼の心で前を向いてまっすぐ歩く。
従者に教えられていた村長の家は、村の中ではそこそこ大きな家なのですぐわかった。
木の扉を控えめにノックすれば、栗色の髪の少年が顔を出した。
「どちらさま?」
すこし警戒した様子の少年が私をじっと見つめる。
「村長さんはご在宅?引越しの挨拶に来たのだけれど」
「引越し・・・?」
「ええ、丘の上の屋敷に昨日から住むことになった者よ」
「丘の上って・・・・・じいちゃーん!!!」
少年は驚きを隠そうともせずに目を丸くして、慌てたように家の中に大声で呼びかける。
どうやら少年は村長の孫息子のようだ。
呼ばれて転がるように飛び出してきた老人が村長らしい。
穏やかそうな好ましい雰囲気をしている。
「挨拶に来るのが遅くなってごめんなさい。色々と立て込んでいて」
「こちらこそ、お待たせしました。いやはや・・・」
村長は私を見つめると驚きと懐かしさが入り混じったような表情を浮かべた。
「先代に雰囲気が良く似ておられる」
「大伯母様に?」
「ええ。パルル様と同じ深い青い瞳ですな」
パルル。
大伯母さまが魔女として名乗っていた名前。
私と同じく、魔女になった時に本当の名前は捨てたのだろう。
「村長さんは大伯母さま・・・先代の魔女と面識があるのね」
「ええ。パルル様にはたくさん助けていただきました。私だけではなく、この村すべてが返せないほどの恩を感じております」
「そうなの・・・」
「新しい魔女殿がいらした事、本当にうれしく思っていますよ」
その笑顔に含みはない。
優しい歓迎の空気にほっと胸をなでおろす。
「私は魔女のユディ。まだまだ未熟で先代のように役に立てるかはわからないけど、村の為に精一杯頑張ろうと思うわ」
「村長のガミルと申します。困ったことがあれば何でも相談してください。これは孫のティル。よければこき使ってください」
「じいちゃん!!」
少年の名はティルと言うらしい。
祖父である村長に頭を撫でられて、ちょっと怒っている様子が可愛らしい。
「ねえ、アンタ本当に魔女なのか?」
「ええそうよ」
「じゃあ、子供を浚って食べるとか」
「ティル!」
「いてぇ!じいちゃん殴るなよ!!」
涙目のティルが面白くてつい笑ってしまう。
「いいえ、子供を食べたりなんてしないわ。私は善き魔女だからね。人を助けるのが仕事なの」
「ふーん」
納得したのかしてないのかティルは目を細めて私を見つめていた。
「ガミルさん。よければいつか村の案内をしてもらいたいのですが」
「それならティルに案内させましょう。私よりも元気ですし、魔女殿も話しやすいでしょう」
「いいのかしら?」
「・・・今日はこれから他に頼まれた仕事があるから、明日なら」
「ええ、よろしくお願いするわね」
「うん」
ティルは面倒臭そうな顔をしていたが、嫌がってはいないようで案内役を了承してくれた。
明日の午前にまたここに来ると約束をして話もそこそこに屋敷に戻る。
急いで戻るとすでに起きていた双子がルイザと一緒になって床の拭き掃除をしていた。
頑張ってくれたみたいで屋敷の中がすっきりと綺麗になっている。
「まあ、掃除をしてくれたのね!ありがとう!」
双子を引き寄せ抱きしめる。
その少し後ろで戸惑ように立ち尽くすルイザを手招きして、同じように抱きしめた。
強く抱きしめたら折れてしまいそうな細い体に胸が痛む。
「それじゃあ、夕食の前にみんなでお風呂に入りましょうか」
「「わーい!」」
双子が声を揃えて喜びあう。
お風呂のお湯を沸かすのは屋敷妖精が請け負ってくれた。
双子は子供らしくお湯ではしゃぎ、恥ずかしがっていたがルイザも久しぶりのお風呂にうっとりと浸かっている。
赤い毛玉と化していた双子の髪は根気よく洗う事でふわふわとした赤毛になり、ルイザの灰色の髪は美しいプラチナブロンドになった。
着ていた服はぼろぼろだったので、私の持ってきていた服を着せておく。
掃除用に持ってきていた古着が役に立った。
ルイザは少し手直しすればそのまま着れるが、双子たちには大きすぎる。
服を揃える必要がありそうだ。
三人とも髪が伸びすぎていたので、風魔法で乾かした後手持ちの鋏で散髪することにした。
前世でも散髪は私の仕事だったもので慣れたものだ。
カイルはスッキリとしたショートヘアに、アデルは前髪と毛先を整えて三つ編みにしておく。
これで双子の見分けもつく。
ルイザは長すぎる前髪を短くした。表れたのは絵に書いたような美少女。
おもわず目を見張ってしまう。
「ルイザ、あなたとってもかわいいわ」
「・・・恥ずかしいです・・・」
目を伏せる姿までかわいらしい。
「ねえさん、とってもかわいいの」
「そう、だからわるいやつがねらってくるの!」
「悪いやつ?」
「そう!わるいやつ!」
ルイザ達が逃げ出してきたという孤児院の話を思い出す。
これだけの外見だ。
子供を商品だと思っている奴らにとっては格好の獲物だろう。
逃げ出して正解だ。
「大丈夫よ。ここには悪いやつが来ないから」
「ほんとう?」
「本当」
安心させるようににっこりと笑えば双子も笑う。
ルイザはまだ少しだけ表情が硬いが、ぎこちなく笑ってくれた。
恐らくは私に言っていない色んなことがあったのだろう。
一度に近づこうとは思わない。
ゆっくり家族になっていけばいい。
その日の夜は、少しだけ手をかけて塩漬けにしておいた肉でパイを作った。
温かな料理をお腹いっぱい食べて、客間のベッドを二つくっつけて4人で一緒に眠った。
少し狭かったが、暖かくて柔らかくて、幸せな気持ちで朝までぐっすり眠ることができた。




