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警戒しながらではあるが、ゆっくりとついてくる気配にこっそりと息を吐く。
逃げ出されたら捕まえる手段がないからどうしようかと思ったが、素直についてきてくれて助かった。
屋敷に戻り、台所の食卓テーブルに三人を座らせる。
毒なんて入っていないからねと念押しして水を差し出せば、ちびちびと飲んでくれた。
明るいところで見ると、やはり随分と痩せているし顔色が悪い
話を聞くよりお腹を満たしてあげるのが先決だ。
栄養のあるものを食べさせるべきなのだろうが、これまでの食生活を想像するに急に味の濃いものを食べさせるのは良くないだろう。
荷物から麦を取り出す。
鍋にたっぷり水をためて麦を入れ、塩とハーブで煮込んでいく。
麦が膨らんだら干しいイモをほぐしながら加えれば、即席だが麦とイモの粥ができあがりだ。
「どうぞ」
たっぷりと皿にのせて、スプーンと共に目の前に並べてあげれば、三つの喉がゴクリと鳴った。
ちらちら許可を求めるような双子の視線に、しばらく迷った様子だったが少女がコクリとうなずいたので、双子は飛びつくようにスプーンを握りしめ皿にかじりついた。
「慌てないで、ゆっくりお食べなさいな」
皿に顔を突っ込む勢いで粥を食べる双子と対照的に、少女はちびりちびりと少しずつ口に運んでいる。
頬を汚し、嬉しそうに食べる双子の様子に嬉しそうな切なそうな視線を向けている。
「たくさんあるから、安心してたくさん食べて。あなたもよ、ちゃんと食べなきゃダメ」
双子が欲しがったら分けてやるつもりなのだろうと声をければ、図星だったらしく視線を彷徨わせる。
私の言葉に意を決したように勢いよく食べ始めた。
きっと、今までもずっと双子たち優先だったんだろう。
前世の自分を思い出す。
どんなにお腹が空いていても弟妹が先だった。
「おいしいね、ねえさん」
「あったかいね、ねえさん」
「・・・そうね」
零れそうな双子の笑顔に、少女の瞳から涙がこぼれた気がしたが見ないふりをしてあげるのが魔女の情けというものだろう。
鍋をすっかり空にして、皿を舐めあげるように粥を平らげた三人は満足げに机に寄りかかっている。
食べすぎじゃないかと心配になったが、幸せそうな表情に私まで満足感でいっぱいだ。
「さて、食事も終わったことだし、話を聞かせてもらおうかしら」
***
「私の名前はルイザ。弟と妹は双子で、カイルとアデルといいます」
お腹いっぱいになった所で疲れが出たのか、舟をこぎ始めた双子をベッドに運んで寝かしつけ、ルイザと共に食卓テーブルで向き合う。
ルイザは国境沿いの大きな街出身で、食堂を営んでいた両親を流行病で亡くしたあと、借金で家や家財を全て取り上げられたらしい。
三人まとめて入れられた孤児院の院長がクズで、女子はある程度の年頃になったら娼館に売られ、男子は奴隷になるという事実を知ったために、双子を連れて逃げ出したらしい。
なんだそのドクズ院長は。それに幼い子供がいるのにいくら借金があるからって全部取り上げるなんて、どんな政治をしてるんだ。
怒りでわなわなと拳が震えた。
「この村に死んだ母さんの妹が嫁いだって聞いてたから、せめて私が働けるようになるまで助けてもらえないかと思って」
「それで、子供だけでここまで?」
「旅商人の人が親切で、送ってもらったんです」
「そう・・・」
「でも、おばさんも病気で死んでて、他に身内も居なくて」
ルイザははらはらと涙をこぼした。
きっとこれまでずっと我慢をしていたのだろう。
小さな双子を守りたくて必死だったのだろう。
「お腹もすいて、休む場所が無くて。そしたらこのお屋敷の門扉が開いてて、人がいないみたいだったから納屋を借りて休ませてもらってたんです」
「門扉が開いてた、ねぇ?」
ちらりと天井付近に目線をやる。
明確な形があるわけではないが、なんとなく上から見ているような気がする屋敷妖精に意識を向ければ、しれっとした声が聞こえた。
『そういえば、先日掃除のための風を強くし続けたかもしれません』
「へぇ」
この屋敷妖精は案外人情派らしい。
所在無げに手元を見つめるルイザの指先も双子同様に細い。
歳を聞けばまだ十二歳。双子は六歳だ。ここまで来るだけでも大変だったろう。
「ねぇルイザ」
これは運命なのかもしれない。
ルイザの話では納屋で過ごすようになってまだ二日程らしく、まるで私が来るのを待っていたような気がした。
「私も昨日から訳あって一人でここに住むことになったの」
ルイザの瞳が大きくなって、泣きそうに揺れる。
これは半分エゴだ。
前世に残してきた心残りを彼女たちで埋めようとしている。
「一人は寂しいと思ってたから、よかったらみんなで一緒に暮らさない?部屋なら沢山あるわ」
ぼろぼろと零れ落ちる涙は宝石のように綺麗だった。
孤独な魔女生活第一日目にして同居人ができたから、今日は記念日にしよう。




