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52 最終話 シュウの聖域


 

「どこまで行ってたんですか!! 出掛けるなら出掛けると、予め教えてくれていないと、いきなり居なくなられたら、こっちだって心配するじゃないですか!」


 

 ただいまー、と元気良く屋敷の玄関をくぐると、玄関脇の応接室から飛び出して来たセラお姉さんが、真っ赤な顔でフライパンを握り締めていた。


 ひぃぃぃっ!? 久し振りの鬼のセラさん!? 僕、悪い子じゃないよぅ!


 ……いや、今回のことに関しては、ハッキリキッパリと、悪い子ですね。軽率な行動をした、俺が全部悪いです。


「お帰りなさい、シュウさん。姉御、四六時中、ずっと心配してたんですよ。このままシュウさんが、元の世界に帰って、いなくなってしまうんじゃないかって」


「僕らは、そんなことないって、分かってましたけどね。あ。あと、どこかで女の人とイチャイチャしてるんじゃないかとか、一時間に一度は呟いてましたよ」


 パコーン!!!!


 セラお姉さんの容赦ないフライパンの一撃を受けて、頭を抑えたマーク君が、泣きながら走り去っていった。


「いやー、別に誰ともイチャイチャしてなんかは……」と、言いかけて、ルイーズと会ったときのことを思い出し、ついつい、言葉を濁してしまう。


 あ。やべ。


 思った瞬間、ポン!と、笑顔のセラお姉さんが、俺の肩に片手を置いた。


「心当たりがあるのですか?」


 言って素敵な笑顔のまま、俺の肩を掴んだ手にだけ、ググググっと力が入ってゆく。


「ハッハッハ! 浮気は、男の甲斐性! 少々のことは大目に見ていかないと、長続きはしないぞ! なぁ、トニー君!」


 応接室から遅れて顔を出したギルスが、隣にいたトニー君の背中をバンと叩いた。


「ええっ!? 俺を巻き込まないでくださいよ!?」トニー君が、サァーっと顔を青くさせた。


「あ…あんたら……」


 プルプルと肩を震わせながら、笑顔のままのセラお姉さんの顔が、ゼンマイ仕掛けのオモチャみたいに、ギギギギっとトニー君らの方を向く。


 や…やばい! 爆発寸前だ! 逃げるなら今しかない!


「ギルス! トニー君! 鬼ごっこだ! 屋敷内から出たら負けだぞぉう!」


 言って、一目散に二階への階段を駆け上がってゆく。


「ちょ、待ってくださいよ、シュウさん!?」


「ぬう。これは私も、退散した方が良さそうだな」


 トニー君を押し退け、ギルスが玄関を駆け出ていった。


「んなぁ!? それは卑怯……」


 パコーン!!!!!


 一人目……いや、マーク君を合わせて、二人目の被害者の、無慈悲なフライパンの音と、悲鳴が響いた。


「キャハハハハ!」楽しそうに走り回るマリカ。


 たっぷりと二時間は要しての、大捕り物が、平和な聖域の屋敷内で、繰り広げられたのだった。



 

 

 さて。いろいろと状況整理を、しなければならない。


 まず一つ、確かなことがある。


 レインティアを滅ぼす要因となる、暗黒竜とやらの脅威は去った、ということだ。


 ということは、つまり、


 俺が作中に設定してしまっていた、レインティアを滅亡に導く要因が、排除されたということに他ならない。


 とはいえ、これから先の、レインティアの危機そのものが、排除されたわけではない。


 今回の遠征軍は、指揮官であるラグデュアル、もといテンネブリスが敗北したことにより、すぐさま帝国領へと撤退していったが、これから先も数年置きに、帝国の遠征軍は北上してくることだろう。


 したがって、備えねばならない。


 具体的には、そもそもの構想にあった、魔導具の開発。まずはこれが第一段階になるだろう。


 軍を組織するために重要な、防御結界の開発も行わなければならないし、レジスタンスに魔導具が行き渡るように、数も揃えなければならない。


 それはまぁ、ギルスが他国にまで声を掛けて、集めてくれた魔導技師達と協力して、地道にやっていくことになるだろう。


 そして魔導具開発の最終目標は、なんと言っても、ロードが搭乗して戦うことのできる、魔導機スティングアーマーの開発だ。


 今回入手した技術、究極融合と猫姫融合の経験が、大いに役に立ってくれるだろうと思う。


 ラグデュアルを見送ったあとに、マリカの遠隔会話を使って、青の軍神ストル・フォーストと出会うこともできたし、戦場での連携はもちろん、魔導具開発についても、協力することを約束してくれた。


 なんでも聖王国プレフィスに、魔導具開発の最先端の施設があるんだそうだ。


 落ち着いたら、ストルの書いてくれた紹介状を持って、訪ねようと思っている。


 まぁ、それは、まだまだ後のことになるだろう。慌てる必要はないと思う。


 とりあえず今は、レジスタンスに配備する魔導具の開発と……ああ、そういえば、ロード試験の方も、未だに棚に上げたままになってるんだっけ。


 とにかく、色々とやらなければならないことがある。忙しくなりそうだ。


 そういえば下町に帰って来たら、屋敷の周りの風景が、随分と様変わりしていた。


 あちこちにあった空き地だった場所に、建設途中の家が建ち並び、道の端には、どこのお祭りだと言わんばかりの、出店が並んでいた。


 屋敷の周りに集まった下級ロードはもちろん、人の行き交いも数倍は盛んになっており、本当にここが下町なのかと疑いたくなるレベルだ。


 家を建てている大工さん達の中に、長い柱を数本いっぺんに抱えた男や、大きな基礎石を片手で持ち上げた男なんかが、混ざっていたけれど……あれって、確実に地竜なんだろうな。


 ああ、ネーロとマウラの姿も、帰ったら屋敷の外にあった。


 まるで門番か衛兵かのように、ビシッと直立して、昼夜を通して家の門の前に構えている。たまに子供達に纏わり付かれては、どちらか片方が屋敷の庭に連れていかれたり、あるいは二人とも餌食になって、肩車したり、そのままの状態で騎馬戦が始まったりと、終始笑顔で、随分と楽しそうだ。


 そんな様子を眺めていると、自然とこっちまで顔が綻んだ。

 



 とにかく、いろんなことが、順調に進んでいると思う。これでレインティアを、本当に救えたのかは分からない。だが例え、これから先、更なる危機が訪れようとも、俺達みんなで、必ず守り抜いてみせる。


 それが、ウィルとの約束なのだから。


 ここは、もう一度ウィルに出会うための、約束の場所。


 この聖域は、何があっても、何人たりとも侵させはしない。


 賑やかで微笑ましい、長閑な町の風景を眺めながら、俺はそう決意を新たにした。



 

「シュウ君。そろそろ、ご飯の時間ですよ?」


 テラスに立って外の景色を眺めていた俺を、セラお姉さんが呼びに来た。


「もうお昼か。おーい、ネーロ、マウラ! メシの時間だってよー!」


 子供達と遊ぶマウラ達を呼び、セラお姉さんと並んで、家の中に入る。と、


 ふと、セラお姉さんが、そっと俺の腕を掴んだ。


「ん? どうしたの?」何気なく振り向き、ニコリと笑いかける。


「えっと……そういえば、まだ、ちゃんと言ってなかったなと思って」言って、僅かに首を傾けながら苦笑した。


「おかえりなさい。シュウ君」ニコニコと満面の笑顔を浮かべる。


「あはは」


 何かと思えば、そんなことか。なんだ。もっと特別なことでも、言われるのかと思った。


 とはいえ……まぁ、そういうことは、男の俺の口からいうのが、決まりってもんだよな。そのタイミングは……うん。今ではない。いくら俺でも、それくらいは分かる。


「ただいま。セラお姉さん」


 返事を返すと、セラお姉さんは、ちょっとご機嫌気味に、スッと俺の腕に自分の腕を回した。「これくらい積極的に行かないと……私だけ遅れを取るわけには」ポツリとつぶやく。


「ん? なんか言った?」


「いいえ。何も。……おっと」


 子供達が俺とセラお姉さんの脇をすり抜け、駆け足で部屋の中に入ってゆく。


「あ、こら! ちゃんと手を洗うんですよ!」


 セラお姉さんが叫び、自然に俺の腕を離すと、子供達の後を追って部屋の中に駆けていった。


 そんな光景を眺めながら、思うのだ。

 



 子供を育てることも、自分の家族を持つということも、幸せなことなんだと。


 ここには、元の世界では得ることの出来なかった、俺が欲しかったものの、全てが存在している。


 だからこそ、守るんだ。


 俺にとってかけがえのない、この世界を。

 



 

ここまでで、完結とさせていただます。

完全に打ち切りのような作りです。申し訳ありません。

詳細は、活動報告の方にて。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


カクヨムの方では、連載続行しています。

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