表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/59

51 慟哭の結末




 これは、全く知らなかった技術。初めて使う能力だ。だが、ダグフォートのサポートもあり、自分自身の力として、如何なく発揮できる自信を感じていた。


 加えて……


 ──さすがは我が主。すでに聖域の理を、完全に把握していらっしゃる──


 一度、現実に言葉を交わしたからだろうか。ダグフォート……いや、この状態だと、正確には漆黒竜ディグフォルトなのだが……とにかく、ダグフォートの意識も、マリカと同じように、明確な言葉として、脳裏に浮かぶようになっていた。


 まぁ、究極融合により意識を共有しているため、明確な言葉として伝える必要はないのだが。ただ、望めば全ての考えが、瞬時に共有できる俺とは違い、マリカにとっては都合が良いだろう。


 あるいは、マリカを思って、あえてやっているのかも知れないな。思えばダグフォートは、親バカ街道真っしぐらな竜神だった。


 ──シュウ様ならば、これくらいは当然にゃ!── 自慢気なマリカの声だ。


 とことんまで買い被ってくれるものだ。まぁ、それほどに信頼を置いてくれてるってのは、すごく嬉しいけれど。


 簡易聖域。この能力は、かつては聖域の主であり、聖域の理を解している、漆黒竜ディグフォルトとの究極融合を用いてのみ、使用できる能力ということになる。


 人間である俺には、単体でそれを使用する術はない。逆にシィルスティングであるディグフォルトにも……仮に、闇竜神ダグフォートとして、解放召喚したとしても、聖域を所有していないため、使うことのできない力だ。


 究極融合をして、初めて成立する能力。


 ──マリカに講釈するためにも、明確に言葉にしておこうか。


 ラグデュアルが今、展開しているのは、ただの領域展開だ。竜脈の神力を利用し、自身の能力を向上させている。聖域展開よりも、範囲や効果が低く、その効用は自分自身にしか用いることはできない。これは、竜脈に干渉する能力を備えた者ならば、方法さえ学べば、誰でも使用できるだろう。


 対して聖域展開は、聖域の主でなければ使用できない特殊なものだ。その効用は自分自身だけでなく、眷族の立場にある者や、加護を受けた人間にも適用される。その効果や範囲は、所有する聖域のレベルが高いほど、強力なものになる──


 そのダグフォートの講釈は、おそらく、マリカだけでなく、俺に教えるものであっただろう。


 究極融合状態であれば、過去の記憶も全て共有しているのだが、そもそも何かの事柄を思い出そうとしない限り、記憶を引き出すことができないのだから。究極融合の主格でいる、とはそういうことだ。


 ──分かりました、お父様!── 終始ご機嫌な口調で、マリカが元気に返事をした。


 さて。またここで、のんびりしていると、ラグデュアル君が更にブチ切れてしまうな。


 聖域展開を、全力で広げる。先ほどより、更に数百メートル、漆黒の範囲が広がり、領域内の暗闇が、更にその深さを増していった。


「支配聖域。漆黒の絶零(ぜつれい)


 自然と口に出る。この聖域展開が、こういう名前なのだということは、究極融合状態のダグフォートの知識が教えてくれた。絶対領域、というものらしい。


 ラグデュアルの展開する光の領域が、漆黒の絶零の、神力圧に抑え込まれ、ほんの数メートルほどにまで、収縮していった。


 リーベラ城にいるときに、俺が受けていた、あの感覚によく似ている。……なるほど。これは確かに、戦闘において絶対的に有利に働く作用だ。


 破壊神が、聖都レティスや、聖峰ヴェルフィート山脈などを落とせない理由は、ここにあったということか。


「ば、バカな! 自らの聖域でもない場所で、絶対領域までをも展開しただと!?

 この理不尽さこそが、貴様が害悪でしかない証ではないか!!」


 聖剣ソルレヴァンテに、煌々と光の神力が纏わされた。


「貴様は危険なのだ! 我らが、数千、数万年の時を要して、理を読み解き、形作ってきた常識を、貴様はものの数分で飛び越えてしまうのだぞ。

 その力が、やがてはこの世界を滅ぼすことになると、なぜ気が付かぬ!!」


 ソルレヴァンテから放たれた暁光斬断(レーヴァテイン)の斬撃が、闇を斬り裂き、光の鎌鼬のようにして、高速で伸びて来る。


「この世界を滅ぼそうとしているのは、俺じゃない。破壊神の方だろう!」


 手にした漆黒の魔剣ディグフォルトに、辺りを支配する、闇の神力が寄り集まってゆく。


「飲み込め、黒牙竜突(フォルトファング)!!」


 黒煙の霧に竜の牙が蠢き、魔剣ディグフォルトから放たれた。大口を開けた闇竜の顎門が、暁光斬断の光の筋を飲み込んでゆく。


 そのまま闇竜の牙が、暗闇に紛れてラグデュアルに襲いかかった。


「ルイス様は、かつての神族だけの世界を、取り戻そうとなさっているだけだ! それのどこが、悪であるか!!」


 ラグデュアルが、球体状の白金の輝きに包まれる。


 極限暁光弾きょくげんぎょうこうだんの構えだ。数々の強敵を撃ち滅ぼしてきた、ラグデュアルの最大技。


 いかに支配聖域の中とはいえ、あれに対抗する手段は、一つしかない。


「深淵に揺蕩(たゆた)う、因果の報い…漆黒の理を持ちて、業火と化せ」


 以前は、ルイーズの横槍によって、邪魔をされてしまった激突が、ここに再現される。


「領域諸共、吹き飛ばしてくれる。


 受けてみよ……極限暁光弾!!」


 バチバチと激しいスパークを放ちながら、ラグデュアルの纏った白金の神力が、一際強烈に輝きを増した。

 一気に膨れ上がった巨大な神力弾が、全身から放たれ、空間を抉るように真っ直ぐに突出して来る。


「黄泉よりの跫音(きょうおん)、暗面の列強…司る双璧、創製(そうせい)の覇者。神言の理を掲げ、()の罪を滅せよ……


 黒煌双滅破弾(オスクリタバレット)!!」


 大きく広げた両手に集まった、根源からの闇の神力が、グルグルと渦を巻きながら、二つの砲弾を形成する。


 過剰なまでの神力を放出しながら、強大な闇の神力の塊が、僅かに重なり合い、輪舞(ロンド)を舞うようにして、高速で前方に射出された。


 光と、闇と…相反する二つの力が、真っ向からぶつかり合う。


 拮抗した光と闇が、ありえないほど巨大に、一気に膨れ上がった。


 翼を大きく広げ、その場に身体を固定する。


 鬩ぎ合う極限暁光弾の白金の輝きと、黒煌双滅破弾の漆黒の艶めきが、周りの空間を歪曲させるようにして、次々と凄まじい余波を発生させ、白と黒の吹き荒れる嵐が、帝国軍と連合軍の戦場までにも、広がっていった。


 全くの互角の状態だ。あと少しでも、極限暁光弾の勢いを上回ることができれば、最後の一押しとしての切り札があるのだが、この状態では、まだ使うタイミングは掴めない。


 戦場で刃を交えていた、最前線の兵士達が、戦いの手を止めて、二色の鬩ぎ合う輝きに目を向ける。


 連合軍の士官が、展開する兵士達に、大声で撤退の指示を飛ばしていた。


 ディグフォルトの眼で持ってそれを確認したのち、前方に突き出した両手から、さらに後押しする神力を送り込む。


 バチッ…バチバチッ…!と、押し合う白金と漆黒に、さらに強力な圧力が加わっていった。


「貴様にだけは、二度も滅ぼされてはやらぬ! ダグフォート!! 貴様にだけは…貴様にだけは!!」


 ラグデュアルが血走った目で、おどろおどろしい憎悪を持って、白金の神力を惜しみもなく放出させていった。


「二度も……だと?


 そうか。貴様……テンネブリスだな?

 ラグデュアルの身体を乗っ取り、憑依状態にあるのであろう。ならばこそ、お互いの竜帝の加護を、自身に掛け合い、それだけの力を手にしたのだな」


 俺の口を借りて、ダグフォートが静かに言い放った。


「貴様を葬るために、一千年かけて理を読み解いたのだ! 今の私は、この世界で、破壊神ルイス様に次ぐ実力者。貴様などに、今さら遅れを取るものか!」


「残念だが、貴様の一千年では、理の神に及ぶには、重みが足りぬ。殊更、他者の力を奪っての神力では、及ぶ道理もない。

 ハッキリ言おう、愚弟よ」


 ダグフォートが、少しだけ哀れみをも秘めた瞳で、ラグデュアルの中に潜む弟、闇竜帝テンネブリスに、断言した。


「急造の貴様の強さでは、生まれ持った光と闇の神力を極めし、我が娘、闇竜皇ヒメリアスにも及ばぬ。もちろん、創造主である我が主にもな。

 自らの修練も怠り、他者の力に頼り切ったお前の……それが、限界なのだ」


 ダグフォートがそう言い放った途端、


 ググッ…と、黒煌双滅破弾の漆黒の塊が、ラグデュアルの白金の神力を、押し戻していった。


 よし…! ここまで来れば、最後の一押しを使うに、絶好のタイミングだ。


 意識を、辺りに展開した簡易聖域に向けると、領域に揺蕩う闇の神力を、一気に黒煌双滅破弾へと送り込ませた。


 領域を支配していた暗闇が、一所に収束してゆく。暗闇の領域が縮まり、晴れてゆくとともに、漆黒の神力の塊が反比例して、さらにその強大さを増していった。


 極限暁光弾が、黒煌双滅破弾に飲み込まれてゆく。


「おのれ、ダグフォート! 六竜神の座を放棄し、失格神よ! 我が呪いは、永遠に貴様を追い続けるぞ!」


 ラグデュアル……いや、テンネブリスが、憎々しげに怒号を上げた。


 そしてそれが、テンネブリスの、最後の咆哮となった。


 黒煌双滅破弾が、テンネブリスを飲み込み、そのままの勢いで、地面に着弾する。


 黒煌が弾け、大地を抉りながら、大きく広がっていった。広大なグラハガ平原に響き渡るほどの轟音が轟き、連合軍と帝国軍の撤退する足元にも、絶え間ない地響きが伝わってゆく。


 やがて、戦場を震撼させた地響きも収まり、弾けた漆黒の神力も、空中に四散し、消え去ってゆくと、


 地面に空いた巨大なクレーターの中央で、静かに横たわる、ラグデュアルの姿があった。


 平原を吹き抜ける風が、無情なほどに作業的に、辺りの土埃を払ってゆく。翼をしならせ滑空し、クレーターの中に降り立ち、歩み寄ると、乾いた土を踏み締める自分の足音だけが、ただただ悲しく、規則的に、耳に聞こえて来た。


 ──テンネブリスは……消えたようだ──


 ダグフォートの声が、ポツリと脳裏に響く。


 マリカはずっと、黙ったままだった。ただ静かに、俺の意識の隣で寄り添い、物悲しそうな瞳で、横たわるラグデュアルを見つめていた。


 と、


 ピクリ…と、ラグデュアルの指先が、僅かに動いた。


 ほんの少しばかりの期待を胸に、ラグデュアルの袂に駆け寄り、その顔を覗き込む。


 土埃に塗れた整った顔立ち。その切れ長の黄金の瞳が、僅かに瞼を震わせながら、俺の目を見上げた。


「分かって……いました。必ず……勝ってくれると」途切れ途切れに、言葉を紡ぐ。


 聞き覚えのある声に、ハッと思い当たった。


 最初にテンネブリスと戦ったとき、ランファルトの盾が破壊されたときに、助言してくれた叫び声。そのときの声と、全く同じ声質だ。


「ラグデュアル……。すまない。黒煌双滅破弾の傷は、癒すことができない。お前を、助けられない」


 寄り添ったマリカの意識が、力無く俯いたのを感じた。


「癒すだなどと……とんでもない。これは……私の罪です。創造主様に背いてしまった……愚かな私自身の」


 言いながら、こちらに向けて手を伸ばしたラグデュアルの身体から、いくつものオーブが舞うようにして、白金の輝きが立ち昇ってゆく。


 身体を構成している神力が、抜け出てゆく光だ。ラグデュアルの身体が、徐々に、徐々に、その色を薄め、透明になっていった。


「今度ばかりは……一千年の時を要するでしょう。前回は二百年ほどで……復活することができたのですが……復活先を、テンネブリスに待ち伏せされてしまい」


「そのことは……もういいんだ。それよりも、マリカに……」


 猫姫融合を、強制的に解除する。


 人型の姿のマリカが、白黒のマントを身に纏い、ラグデュアルの側にふわりと降り立った。


 そのまま立ち尽くし、俯くように、静かにラグデュアルを見つめる。


 ラグデュアルの視線がマリカを見据え、優しく、透き通った笑顔を見せた。


「ごめんな……マリカ。こんなにも、待たせてしまった……また……待たせることになってしまう」


「待たないにゃ。私は……シュウ様と生きてゆくと、決めたのにゃ」拗ねた子供のように、少しだけ口を尖らせる。


 ラグデュアルが、フッと笑い声をあげた。


「そうか。できれば……私もそこに……加えては、貰えないだろうか」


 ラグデュアルの視線が、震えながら、こちらに向けられる。 


 ただ笑顔を浮かべ、それに答えた。


「必ず……必ず戻って来ます。そのときはどうか……私も……二人とともに……」


 ラグデュアルの声が、搔き消えるように、小さくなっていった。


 同時に、絶え間なく浮き上がっていた光のオーブが、徐々に個々の輝きを薄れさせてゆく。


 やがて、全ての光のオーブが、虚空に消え去ってしまったとき、


 ラグデュアルの姿もまた、霞のように消え去ってしまっていた。



 

 マリカの慟哭が、戦場跡で、ただ吹き抜ける風に流されてゆく。


 ポン…と、マリカの頭に手を乗せると、軽く撫でながら、そっと胸に抱き寄せた。


 ただただ、静かに。


 ただただ、哀しく。


 胸の中を突き刺した、言いようもない暗い、想いだけが、全てが終わった戦場跡で、ただただ無言で、頬を伝って風に流されていった。





次で最後、打ち切りとなります。

カクヨムの方では、この回から内容が変わります。まだ追いついていませんが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ