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28 ファルナの行方



 翌朝。皆んな揃って朝食をとって、子供達を見送り、大人達も仕事に出かけると、その辺りから見計らったように、次々と客が訪れた。


 簡易魔法を買いたいというロード達をはじめ、挨拶したいという街の商人や貴族達、中には王族の端くれも混ざっていたりと、引っ切りなしに人が訪れる。


 元々日中は、他のマスターロードや上級ロード達の家、またはギルドの事務所と同じように、顔を覚えてもらうためや、何かしらの雑用を期待して、下級ロード達が屋敷の周りに待機していたのだが、少数だったその下級ロード達の数も、驚くほど増えていたし、訪問の順番待ちをする商人や、貴族達の列が、玄関先からズラッと続いている。


 ちなみに待機組の下級ロードだけど、頻繁に来てくれる子には、小遣いを渡したり、差し入れをしたりというのが、屋内ロードとしてのマナーだ。俺が定めた設定なのだし、顔を覚えた子は、ちょっと優遇してあげている。


「ぼ、僕らが対応しますので」と苦笑を浮かべたマーク君が、トニー君とバルートのおっさんと三人で、順に対応をして回り始めた。


 まぁ、マーク君達が訪問者の対応をするのは、いつも通りの流れではあるが、今日はいつもと違い、殊の外数が多い。おそらく、昨日の黄金竜撃退の話が響いているのだろう。


 セラお姉さんが貴族らの相手を、アリエルが商人の相手をし、部屋のリビングや応接室が賑やかになる。


 俺はというと、台所でマリカと爺さん婆さんとのんびりお茶を飲みながら、会うだけの価値があると、セラお姉さんが判断した貴族達にのみ挨拶に向かい、とりあえず今日のところはこれでと、話もお座なりに席を立つ、というやっつけ仕事を繰り返していた。


 あとは、ちょくちょくマーク君達が、簡易魔法を受け取りにきては、それが常連さんだったり、簡易魔法のチャージだったりしたときは、ロード達の対応場になっていたテラスの方まで足を運ぶ。


 午後からフォッグ家との約束があったことは、僥倖だっただろう。でなければ一日中続いたかも知れない。まぁ、昼前には、その騒ぎもだいぶ落ち着いてはきていたけれど。


 ちなみにアリエルは、一度も俺を呼びにくることはなかった。商人達の目的は、融資を持ちかけてお抱えにしてもらいたい、という思惑がほとんど…いや全てだっただろう。そう思っていたところに現れたのが、大陸随一の豪商、アリエル商会の総元締だ。きっとグゥの音も出ずに、帰って行ったに違いない。


 それでも益のある話なら承諾したと、後にアリエルは言っていたが。まぁ、その道はアリエル任せで大丈夫だろうな。


「次からは、まずアポを取ってからと、釘を刺しておきました。それから、シュウ君は忙しいお方だから、挨拶程度の訪問はお控えくださいとも。…いずれ、挨拶したいという貴族達を集めて、パーティを催す必要がありそうですね」と、セラお姉さんが苦笑いながらに言った。


 パーティねぇ。子供達も参加していいってんなら、むしろウェルカムだがなぁ。なんなら毎日でも…それは怒られるか。教育にも悪そうだ。


 ──屋敷の裏手の水路に迎えに来た移動舟に乗って、貴族区にあるフォッグ家の屋敷へと向かう。


 一般庶民のよく使う乗り合いの駅舟ではなく、貸切の移動舟だ。バスではなくタクシーってとこか。今の状況で乗り合わせだと、騒がしいことになるだろうと、セラお姉さんの配慮だ。


 屋根付きの舟で、見た目も豪華な人力の舟だ。張り巡らされた水路は、大人の身長くらいの深さで、長い棒を持った男が、船尾で一人で動かしている。渡し人と呼ばれる職業で、ティアスでは結構人気の職業らしい。


 舟に乗っているのは、俺とセラお姉さん、アリエルとマリカ、あとはバルートのおっさんだ。マーク君とトニー君はお留守番。さすがに今日は、爺さん婆さんの二人だけに任せるわけにはいかないだろう。


 というか朝、商家の倉庫の、清掃の仕事に出かけて行ったおばちゃん二人が、昼には帰って来ていた。なんでも仕事は午前中だけで、午後からは家事や買い物など、家のことをやる役割なんだとか。


 なるほど。俺の心配は杞憂だったわけね。 


 でもせっかくなんで、洗濯機は作るけどね。構想も固まったし。


 魔導具の材料に関しては、アリエルが直接、現物を手配してくれることになっている。もうすでに発注済みで、あとは届くのを待つばかりだ。


 あと、屋敷の明かりも魔導具システムにしたいところだな。最終的には、お風呂やキッチンなんかも、オール電化ならぬ、オール魔導化にしたいところだが…まぁそれは追い追い。


 灯りだけなら、すでにロード協会の関連施設が、オール魔導化されてるけどね。あっちは固定型の魔導具で、竜脈から直接神力を流用しているものだし、うちとは違うのだよ。


 …竜脈から直接、神力を使ってもいい気はするが。俺なら竜脈に干渉できるし。てか属性は限られるけど、マリカやアリエルもできるだろうが。


 つか、チャージもそっちで作った方が、効率いいじゃん。アホなのか俺は。いや…神力を鍛えることを考えれば、そうでもないのか。


 固定式だと大掛かりな設備になってしまうし、メンテナンスも大変だ。携帯型の利点もあるってことだ。そもそも遠征時には、どうしても携帯型が必要になるわけだし。


「シュウ様。冷たい飲み物をどうぞ」と、アリエルが陶器に入った、氷入りの飲み物を差し出してきた。


 水路の途中には、舟に乗ったままでも買い物できる場所が、各所にある。観光ツアーなんかでは、舟に乗って一日中ティアスを回る、というプランなどもあるらしい。


 この容れ物の陶器なんかは、中身を飲んだ後にそのまま舟に置いておけば、後で渡し人が店に返しておいてくれる。そして渡し人は、店からも幾らかの小銭がもらえる、というシステムなんだとか。


 前は街中で飲み物を売る店と同じように、竹を加工した容れ物が通常だったそうなのだが、飲み終わった後に水路に捨てる人が多くて問題となり、禁止になったのだという。


 うん。よくある話だ。どこの世界でも一緒だな。


 ゆったりと舟の座席に背を預け、街の風景に目を向ける。こうして見るとすごく趣があって、いい街なのだと分かる。


 水路の幅は、日本の一般道の二車線分といったところか。場所によっては、もっと狭いところもあるけれど。


 要所要所に架かる、アーチ状の橋。その上から、辺りに住んでいるだろう子供達が手を振っていて、思わず綻んで手を振り返す。


 数分置きに、乗り合わせの駅舟とすれ違う。どの舟も半分以上の席が埋まっていて、どれだけ水路が交通の中心になっているかが伺えた。


 そういえばこの街に、貸切の馬車はあるけれど、乗り合いの駅馬車はないものな。他の街へと向かう、本格的な駅馬車はあるけれど。


 豪華な貸切舟や馬車を使うのは、身なりの良い商人風の男や貴族達ばかりで、一般人が使用することはほとんどないようだ。


 人通りの多い商店街や歓楽街を抜けると、街の中に緑の数も増えてくる。行き交う人々の数も徐々に減ってゆき、貴族風の格好をした者達の姿が目立ち始めた。軽装の鎧を着込んだ見回りの兵士の姿や、日傘を差して優雅に談笑するする貴婦人達。


 貴族区だ。立ち並ぶ屋敷は、綺麗な装飾の施されたものが多く、庭の手入れをする庭師や、メイド服を着込んだ使用人達が目につく。貴族区間の水路に入る際には、舟が一度止まり、開け放たれた水門の脇に立った兵士に、セラお姉さんが左手を上げてロードリングを見せると、兵士がどうぞと一礼して、舟が再び動き始めた。


 この貴族区には、レインティアの全ての貴族の家系が、屋敷を構えている。領地にも屋敷を持ち、行き来している者もいれば、領地を持たぬ、名前だけの家系もある。または、跡取りの息子だけが首都に住んでいたりと、まぁ家によって様々だ。これは、この世界の他の国々でも似通っている習慣だ。


 フォッグ家の屋敷前に到着し、舟を下りる。そのまま舟にはその場で待機してもらい、屋敷の前に立った出迎えの使用人の女性に、門の中へと促される。


 さぁ、ようやく、ファルナ・フォッグ…母なる神レーラ・クルーに会える。初の三神。三つに分かたれた、創造神ウィラルヴァの一欠片だ。無論、母なる神としての力も記憶も覚醒していないだろうし、言葉も片言の、三歳の普通の女の子だろうけれど。


 まぁ言葉に関しては、三歳でも普通に喋れるかもな。発育は個人差がある。うちの姉貴の子供なんて、一歳のときには立ち上がって家の中を走り回っていたし、会話も成り立っていた。ファルナはレーラ・クルーとしての影響も、少なからずあるだろうから、発育は同年代の子より、早い可能性が高いだろう。


 そんなことを考えながら、フォッグ家を訪問したわけだが…。

 


 結果。



 ファルナには会えなかった。


 

 

 屋敷の主、アイラ・フォッグは、意志の強そうなしっかりとした印象を受ける、凛とした女性だった。


 それぞれに挨拶を済ませた後、唐突に、ファルナがいないということを告げられた。


「娘は、レイン王家の養子となりました。昨夜、急にそういう話になり…今は王宮にいます」


「王宮に…ですか」


 眉をひそめて、アリエルと視線を交わす。


 と…不意に頭の中に、声が響いてきた。


 ──おそらくですが、シュウ様がファルナ様を探していることを、王家が把握したのだと思います。レーラ様の生まれ変わりだとまでは、把握していないでしょうが、とりあえず手元に置いた、というところではないでしょうか──


 アリエルの声だ。テレパシー使えるのかこの子は! そういえばマリカも、出会ったとき似たようなことやってたな。それを個別にやったってことね。


 ああ、ということは、一方通行のやつですねこれ。とりあえず了解です。


「このことを、ギルス・レインは了承しているのですか?」


 一応訊いてみた。ファルナの父親であるギルス・レインは、この件には関わっていないだろうことは、予測できていたのだが。


 ギルスはこの、アイラ・フォッグとは結婚していない。外巧内嫉でドロドロとした王家の社交に、アイラやファルナを巻き込むことを嫌い、娘の存在もひた隠しにしてきた。ファルナもギルスのことは、たまに遊びに来る知り合いのおじさん、くらいにしか思ってはいないだろう。


 これが男の子だったら、話も変わってくるのだろうが、ファルナは女の子だ。やがて望まぬ結婚を、強いられることもあるかも知れない。その辺りのことも、ギルスが二人から距離を置く理由の一つだ。


 ギルス自身は、レインティアの一軍を預かる将軍であるが、王位継承権の順位は低い。ただし将としての才覚には恵まれ、温厚で思慮深く、軍略に優れ、人望を集めたギルスは、やがては王となり……あれ? いや、それはエストランドでの話だったか。


 うん? エストランド? 何言ってんだ俺は。……どうやら、記憶がかなり曖昧のようだ。


 とにかく、ギルスならば、このまま黙って傍観を決め込むことはないだろう。何かしらの手を打って来るはずだ。


 …と思っていたのだが。


「ギルス・レインとは、失脚した前将軍のことですか? どうしてギルス様が出て来るのでしょう?」と、こちらの顔色を伺うアイラ。


 おっと。どういうことでしょうか?


「失脚…とは? ギルスはもう、レインティアの将軍ではない?」


「…そういえばシュウ様は、レインティアの人間ではないのでしたね。ギルス様は二年前の遠征の際、致命的な采配ミスをしたとして、敗責を背負わされ、その後行方不明となっております」


 そういえば、確かにそんな件りもあったような……。


 うーん。アレクのような主要人物なら、色々とよく覚えているのだが、いかんせんギルスは脇役だったため、どうも記憶がハッキリとしない。レインティアではなく、エストランドの賢王として、永きに渡り帝国の侵攻を食い止めた英雄、だったという記憶まで出て来た。


 もしかしたらこの後、ギルスはエストランド王になるということだろうか。まぁ、あり得なくはないが。同じ名前の別人…は流石にあり得ないか。どうにも矛盾が多い。


「…ギルス・レインは、ファルナの父親、ですよね?」単刀直入に尋ねる。


「えっ…?」と、セラお姉さんが驚いた顔を見せる。


 お? あ。ごめん話してなかったね。苦笑いすると、セラお姉さんは仕方なさそうにため息を吐いた。


 アイラは一瞬、言葉に詰まり、じっと俺の目を見据えたが、


「……マスターロード様に、誤魔化しは通用しないでしょう。確かにファルナは、ギルスの子です。しかし…それをどこで? 限られた、信頼できる者しか知り得ぬ事なのですが。そもそも、うちのファルナに、どのようなご用件だったのでしょうか?」訝しげに眉を顰めつつ言った。


 よしよし。ギルスが父親であるのは、間違いないようだ。


「それはまぁ…敵ではないのは確かですとしか。こちらも、色々と事情がありまして」


 こんな回答じゃ納得してはもらえないだろうが…流石に真実を話すわけにもいかない。ギルスにならば話しても大丈夫な気がするが、言ってもアイラは普通の女性だ。聡明ではあるのだが。


「ギルス絡みの事情…と受け取って宜しいのでしょうか? その上で、ギルスの敵ではないと?」


「そうですね。そうご理解いただければ…。

 とにかく、今回のことは、王家の動きを予測できなかった、こちらの不手際でもあります。

必ず、納得のゆく形で解決することを、お約束致します」と、俺はアイラに向かって、深々と頭を下げた。


 

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