27 召喚結合
これは、召喚融合の新しい段階だ。
おそらく、史上誰も試したことがないだろう。設定にはしていなかったが、構想にはあった。物語中、誰も使うことのなかった、融合方法。
「…召喚結合! 魔狼竜クリストシルヴァ! 全力全身!」
クリスタルドラゴンの全身鎧に、シルヴァの全身融合が重なる。普通なら弾かれて融合できないが、これはただの融合ではない。
クリスタルドラゴンとシルヴァが、重なるように、溶け合うように、白銀の輝きを放った。
クリスタルドラゴンは無属性。いや、全属性ともいえる神竜。いうなれば、ウィラルヴァと同質の存在ともいえる神竜だ。この世界に最初につくられた、数少ない神竜族。そこに光と風の属性を持つ、魔狼シルヴァが重なり、結合してゆく。
全身鎧が、白黒の色合いはそのままに、形を変えてゆく。鎧の模様が、嵐に波打つ魔狼の体毛のように、鮮やかに彩られ、籠手や兜、具足等の各所に、狼の爪や牙のような装飾が施されていった。続けて、
「魔剣ディグフォルト同調融合、神盾ランファルト同調融合!」
同じ色合いが、剣と盾にも侵食していく。逆に剣と盾からも、白銀と漆黒の色、そして猛々しい竜の姿が、全身鎧に反映されていった。
背中から、白銀と漆黒の鮮やかに合わさった翼が、バサリと広がり…戦うスタイルが、完全に確立された。
父なる神ウィルにも成し得なかった、俺ならではの姿、試作第一号!
三号辺りでは鳳仙花になってるかも知れない! …なわけないが。
「な…」
絶句したアリエルが、細い切れ長の瞳を、まあるく見開いている。
が、すぐにキッと目つきが引き締まり、
「創造主様の本気というわけですか! ならば、こちらも本気でゆきます!」と、バッと両腕を上にかざした。
「シュウ様がんばれー! アルちゃんがんばれー!」
観客席のマリカが、楽しそうにピョイコラピョイコラ、踊るように飛び跳ねて応援している。
和むわぁー。…いやいや、そんな余裕はないから!
アリエルの全身が金の輝きに包まれ、大きく膨れ上がっていった。
「この姿で戦うのは、何千年ぶりでしょうか」
静かに言い放ったアリエルが、黄金の鱗に覆われた巨大な足を、ズシンと前に踏み出した。
二本足で立つ黄金色の鱗竜。金の鬣が鮮やかに広がり、先端が足先の辺りまで垂れている。地竜であるため翼はない。大きさはマリカウルよりも二回りは大きく、二本足で直立したその姿は、竜や獣というよりは、獣人という姿に近いだろう。
「な、なんだあれは!?」
「ど、ドラゴン!? やばいぞ、なんでこんなところにドラゴンが!?」
「喋ってなかったかあのドラゴン!? まさか、神級のドラゴンなんじゃないか!?」
騒ぎを聞きつけたのか、または偶然なのか、観客席にちらほらと一般人が集まりつつあった。
ちょ、このタイミングは、めっちゃ邪魔なんですけど?
「人が集まってしまいましたね。早めに決着をつけましょう」と、アリエルがグッと首を下げて身構えた。
その表情は、どこか嬉しそうだ。
…あれ? もしかして、久々に本来の姿で暴れたかっただけじゃないだろうな?
「ガイアブレス!」
アリエルの口から、霧のような粉塵のような、金色の混ざったブレスが吐き出された。
勢いよく噴出されたそばから、まるで重力に押し潰されたかのようにして、一気にズガン!と降って来る。
翼をバサッと一振りし、粉塵を散らして飛び上がる。ズガガガガっ!!と、粉塵を浴びた石畳が、粉砕されていった。
怖っ! なにそのブレス! 喰らわなくてよかった!
「ロックブレス!」
空中の俺に向けて、尖った無数の石飛礫が吐き出された。
「盾よ広がれ!」
ランファルトの盾を身長サイズに大きくし、ガガガガッと石飛礫を受け止める。
盾に阻まれなかった石飛礫が、後方に過ぎ去り、観客席をドドドドッと破壊していった。
近くにいた一般人が慌てて逃げ惑う。が、当初の約束通り、怪我をした者は誰もいないようだった。
「メテオブレス!」
今度は、尖った巨大な岩盤が、アリエルの口から射出された。
明らかに口のサイズよりデカいが…ブレスといっても、魔法は魔法だからね。細かいこと気にしてたら、遅れを取り兼ねない。
「シールドカウンター! 逆撃の咆哮!」
ランファルトで岩盤を受け止め、カウンターをかけて弾き返す。倍の勢いで岩盤がアリエルを襲ったが、頭突きの一撃で、岩盤が真っ二つに割れて、左右に分かれて観客席に突き刺さった。
ズガァァン!!
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
「に、逃げろぉ、巻き込まれるぞぉ!」
「ど、ドラゴンと戦ってるロード様は、誰なんだ!?」
「向こうのねぇちゃんが、シュウ様とか、アルちゃんとか言ってなかったか!?」
「シュウ様!? それって、ティアスに来ているっていう、マスターロード様の名前じゃないか!」
「何っ!? マスターロード様が戦って下さっているのか!」
「うおぉぉぉっ! マスターロード様ぁぁっ!!」
口々に好き勝手なことをのたまう、一般ピーポー達。
…いいから、はよ逃げろや。
「次で最後です」と、アリエルが静かに言い放つ。
ガッと石畳を踏み抜き、両足を踏ん張り、スゥっと大きく息を吸い込んだ。
「ガイアバースト!!」
ドゥン…!! という音と激しい振動と共に、アリエルの口から、黄金色の閃光が放たれた。
これを避ければ……街に直撃だと? やってくれたな!
翼を大きく広げ、身体を空間に固定する。
「ディグフォルト変換、極限魔砲!」
ディグフォルトを、竜が大口を開けた砲口へと変化させ、真っ直ぐ前方に構えた。
以前使ったときよりも、大きく、強く。
「焦砲黒炎弾…ダークフレアバレット!!」
ゴゥッッ!!
一際巨大な、赤黒い炎の弾丸が、アリエルの閃光にも勝る勢いで射出された。
赤黒い黒炎の塊と、黄金色の閃光が、真っ正面からぶつかり合う。
数秒の間、負けじと鬩ぎ合った二色の力の塊が、やがてグラっとバランスを崩した。
金色の閃光を飲み込み、赤黒い黒炎が、ググッと前進する。途端、一気に突出した黒炎が、アリエルの巨体に衝突し、激しい爆発を引き起こした。
ドガアァァァァァンッ!!!
爆発を中心に、竜巻のような旋風が吹き荒れ、粉塵にコロシアム一帯が包まれる。
──やがて、粉塵が薄っすらと晴れてゆき、爆発の起こった中心部分には、
石畳が粉々に崩れ、露出した地面の上、人の姿でペタリと座り込む、ボロボロのアリエルの姿があった。
バサッと翼をはためかせて滑空し、アリエルのすぐ手前に着地する。シィルスティングの融合を解き、リングに戻すと、ハァハァと肩で息をするアリエルの前に歩み寄る。
「はーい。回復はいりまーす」と、どこからともなく現れたマリカが、アリエルの背後に座り込んで、回復魔法をかけ始めた。
「だからゆったじゃない。シュウ様は強いのです」
「あはは。ホントに、そのとおりでしたね」
視線を合わせて、マリカとアリエルが笑い合った。
というかアリエル、擦り傷だらけで服もボロボロだ。
なんという破廉恥な格好を! 誰かに見られたらどうするんですか! お父さんは許しませんよ!?
「あらあら。確かにいけませんわね」とニコッと笑ったアリエルの服が、ブンっと金の輝きに包まれた。やがて輝きが収まると、綻び一つない真っ新な服を着たアリエルの姿がそこにあった。
あれか、武具カードの修繕機能と同じ原理か。便利だなそれ。
「と。それより、アリエル」と、アリエルの側に一歩歩み寄り、
──ゴチン! とその金髪の頭にゲンコツを落とした。
「あいたっ!」と、両手で頭を押さえるアリエル。
「最後のアレはなんだ。俺が避けたらどうするつもりだったんだ? それだけでも、お前の反則負けにできたんだぞ」
腰に手を当てて、それっぽく説教してみせると、アリエルは未だ片手でスリスリと頭を摩りながら、ニコッと笑った。
「受け止めてくれると思いました。全てを」と、ニコニコと笑顔を崩さない。
いや、まぁ…確かに避けるという選択肢はなかったけれども。受け止めるというより、跳ね返したべ。
と、
「ま、マスターロード様が、黄金竜を退治されたぞ!」
「あの美女は!? まさか、悪しき竜神に囚われていたというのか!!」
「マスターロード様が美女をお救いになられた!」
「我らのことも、このティアスもお救いくだされたぞ!」
「マスターロード様ばんざーい!」
「シュウ様、ばんざーい!」
相も変わらず好き勝手な解釈をした民衆の、拍手喝采に包まれた。
…いや、帰れよ。というか、ああゆうときはすぐに逃げなきゃダメでしょうが!
結局その後、集まった民衆に説教して、危機意識を植え付ける羽目になった。
しかしそれすらも、いいように解釈されて感謝されてしまい…。
もう、どうでもよくなって、そそくさと家に帰ったのだった。
その日の夕刻。屋敷のリビングにて。
「─で、新しい住人が一人増えたというわけですね? しかも竜族で。しかも、こんなに美人で」と、腰に手を当てたセラお姉さんが、魔獣すらも貫通させてしまいそうな鋭い視線を、こちらに向けていた。
「アリエルと申します。以後、よしなに」と、ニコニコ顔を崩さずに、アリエルがお行儀よく一礼する。
「あ…セラ・ディズルと申します。それにしても、なんというか…」と、セラお姉さんの視線が、アリエルの胸元にチラチラと向けられる。
うん。セラお姉さんよりも、だいぶ大き……なんでもないですよー。何も見比べてませんよー。
咄嗟にそっぽを向いて、マリカの頭を撫で撫でして、背後に迫るギンギンの殺気に、冷や汗を垂らす。
「はぁ…まぁ、いいです。
それより、朗報ですよ、シュウ君」
セラお姉さんがフワッと笑顔を見せて、
「探していた女の子が見つかりました。やはりレイン家ではなく、フォッグ家のご令嬢で、今は三歳だそうです。
明日、フォッグ家の屋敷に、訪問の約束を取り付けることもできましたよ」
「見つかったのか! 三歳…ということは、レインティアの滅亡まで、二年の猶予があるということだな」
二年もあれば、十分な準備をすることができる。
なんだウィラルヴァ、やるじゃない。いいタイミングの場所に、送り込んでくれたものだ。
「おや。その子の話は初耳ですね。状況を説明して頂いてよろしいですか? これでも、各国の王族には顔が効くのですよ」と、アリエルが話に割り込んで来た。
「そういえばアリエル商会っていえば、アクロティア随一の商会でしたね。うちの叔父も、何度かお世話になったことがありましたよ」と、マーク君が言う。
「ティフォン家とも、懇意にさせて頂いております」と、アリエルがニコリと微笑み返す。
アリエル商会。俺が想像していた以上に、大きな組織らしい。各国の王族や貴族だけでなく、各都市の裏の組織や、さらにはロード協会まで、あちこちに相当の額のお金を貸し付けているのだという。
ロード協会に関しては、創立時からスポンサーの立場にあり、活動資金の半分は、アリエル商会が担っているのだとか。
あ…アリエルさん。思ってた以上の大物でした。ただニコニコしてるだけの、仏のアルちゃんじゃないのね。
きっと躊躇いもなく地のブレスを連発してたあの姿が、本来のアリエルの本性なのだと思う。これは怒らせちゃいけないヤツだ。
「ふむふむ。ということは…余計な輩が、しゃしゃり出てくるかも知れませんね」と、話を聞いたアリエルが、ふうと軽く息を吐いた。
「余計な輩、とは?」トニー君が訊く。
アリエルはニコリとして、
「ハッキリ言いますと、今のレインティアの王家は、腐っているのですよ。そのファルナという女の子が、シュウ様の弱味と見て、何かしらの手を打ってくる可能性がございます」
「レイン家がか? まぁ、王家ってのは、大抵がロクなもんじゃないのは認めるけど」
確かに、この世界の王家は、どの国にもロクでもない奴が必ずいる。ウィルも散々に辛酸を舐めさせられていた。武具カードを明け渡したのも、その苦肉の策の一つだったわけだし。まぁ、それについては、後付きで上手くはいったんだけど。
それでも、レインティアを救うためには、レインティア軍との連携も必要なのは確かだ。できるなら波風立てたくないところではある。
「軍隊、ですか…。あてになさらない方が良いと思いますよ? 必要ならば、私が雇っている地竜の軍勢五十を差し上げます。なんなら、私が自ら指揮いたしますが」
いやいやいやいや、どんだけよそれ?
どうやらアリエル、人として生きている、かつての部下達にもお金を貸していて、そのうち五十人ほどを、返済のために常時雇っているらしい。普段は商会の用心棒をしたり、借金の取り立てをしたりしているが、いざというときには、アリエル自らが率いて、ビズニス軍やエストランド軍と混ざって、出陣することもあるのだという。
どこまで猛者なのこの子。そりゃ強いわ。絶対逆らわんとこ。地竜五十とか、勝てるかそんなもん。
「とにかく。明日面会されるというなら、私もついてゆきますね」と、アリエルは仏様のように笑顔を浮かべた。




